ウォーレン・バフェットの師であるベンジャミン・グレアムの「賢明なる投資家」を読んで、投資に対する考え方を「防衛的投資家」と「積極的投資家」に分けてまとめてみた。


防衛的投資家

ウィリアム・F・シャープに代表される一般的な投資理論で言われるように、リスクを最小化しリターンを最大化するポートフォリオは効率的フロンティアである。投資家のリスク許容度により、リスクフリー資産と効率的フロンティアから成るポートフォリオが彼にとって最適なポートフォリオとなる。

この理論は市場が効率的であるという仮定の元で成り立つものである。すなわち、全ての投資家が平等かつ正しい情報を持っていて(情報の非対称性がなく)、瞬時に取引ができるということである。後述するが、現実の市場は必ずしも効率的であるということはなく、そこに裁定機会を見るのが積極的投資家の仕事である。

あなたが防衛的投資家である場合、すなわち市場のひずみからそこに裁定機会を見出すことを面倒だと感じるならば、取るべき投資戦略はインデックスへの投資である。過去の研究から見ても、アクティブファンドは長期的にはインデックスを上回る成果を上げることは難しいとされている。サラリーマンのファンドマネージャーによって運用され、高い手数料を取って投資家のリターンを下げる投資信託なんかはなおさらだ。

現実的に完全な効率的フロンティアを獲得することは難しいが、インデックスに含まれる資産は可能な限り分散していることが望ましい。日本だけのインデックスでは不十分である。金融理論からは少し離れるが、単純に考えて人口減少社会である日本とまだまだ人口が増える世界全体とどっちが成長するかということも踏まえて考えて欲しい。

防衛的投資家に対して私が提案する投資方法はずばりMSCIなどの世界インデックス投信(またはETF)に積立投資を行うことである。世界市場のインデックスは効率的ポートフォリオに限りなく近く、またアクティブファンドではないため手数料も最低水準である。さらに積立投資としたのはドルコスト平均法のメリットを享受するためである。これは実は市場の歪みを元にした投資手法である。そもそも、市場が効率的であれば価格は一定となるはずだが、実際は上がったり下がったりするのが市場である。最終的にファンダメンタルズに収斂していくのであれば、安いときに多く買い、高いときに少し買うということだけでも市場平均を上回るリターンを上げることができるだろう。この戦略で投資する場合、市場の変化に一喜一憂せず、長期的な視野で投資することが重要である。


積極的投資家

積極的投資家とは、何らかの情報の非対称制により、本当の価値と市場で付いている価格の差から鞘を抜く投資家のことである。積極的投資家には短期的投資家と長期的投資家の2種類がある。いずれも他の投資家が持っていない情報を利用するため根気が必要である上、やり方が一般化してしまうとたちまち鞘がなくなってしまう点は留意しなければならない。

<短期的投資家>

短期的投資家は主にテクニカル分析から市場のパターンを見抜き、チャートを見ながら安い時に買って高いときに売ること(またはその逆)を繰り返す投資家である。プログラムトレードなどがこれに当たる。

日々の市場は多くの投資参加者の心理によって動くものであり、統計的に短期的な動きを予想することも不可能ではないだろう。ただし、注意しなければならないのは、パターン化してそれが一般に普及してしまった時点で情報の非対称性がなくなってしまい、鞘を抜くことが難しくなってしまうことである。また、特に一日の動きを追っているいわゆるデイトレーダーはスピードが勝負であり、高度なシステムを用いる機関投資家に勝つことは難しいということも付け加えておかなければならない。

<長期的投資家>

長期的投資家は、長期的に見て市場で付いている価格が本質的な価値からかけ離れていることが分かれば、その資産に集中投資する投資家である。対象となる資産は何でも考えられるが、例えばウォーレン・バフェットはそれが個別株であり、ジョージ・ソロスはそれが為替という具合である。

個別株の本質的な価値は将来生み出されるキャッシュフローの現在価値の合計である。将来生み出されるキャッシュフローということは、必要な情報は「未来の」情報ということになる。当然未来のことは誰も分からないが、それをある程度の確度で予想することが個別株における積極的投資家の仕事である。バフェットは安定した収益を生む事業を持つ会社を選ぶことで、将来収益の予測可能性を高め、それが何らかの理由(例えば金融危機や個別のニュース・ヘッドライン)で割安になってしまった、あるいは放置されている銘柄に集中投資することで巨額の富を築いたのである。将来の予測がある程度できるのであれば、その本質的価値と市場の差額は「安全リターン」とみなすことができる。

長期的投資家であっても、成長株への投資は実は少し難しい。特に人気化している成長株は情報の非対称性が逆に働き、本質的な価値よりも割高になっている可能性が往々にしてあるからだ。また、新興企業であれば将来的な収益がどうなるかも見通しにくい。成長株投資で成功するためには、人気化する前に余程の自信がある場合にのみ手を出すべきであろう。

いずれにしても、成功する積極的投資家となるためには、自分が確信を持てるまで将来のことを調べなければならない。逆に考えると、多くの人はそれをしないがために情報の非対称制が生じ、積極的投資家が活躍できるのである。バフェットが今になっても成功し続けていることを考えると、当分このやり方は通用しそうである。

グレアムは以下のように言ったそうだ。

自分だけで考えろ、正確に考えろ

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