自分の会社を潰す方法を考える―――。別に会社に恨みを持ってあれこれ策略を練ることではない。大前研一が限界突破をするための思考法として提案していたものだ。

その考え方は「アービトラージ」である。すなわち、情報格差やプロセスにおけるコストの格差を利用し、商品・サービスと同じ品質を確保しながら、より安価に資源を獲得して競争力を得ることである。

例えばユニクロは、それまでバラバラになっていたアパレルの小売業を製造小売業(SPA)に進出し、さらに製造を中国やベトナムで行うことで、同じかそれ以上の品質の服をより安価で販売することに成功した。

このような思考をする手段が「自分の会社を潰す方法」を考えることである。それに従って、私が今所属している証券会社の投資銀行部門を潰す方法を考えてみることにする。

投資銀行部門の収益は、株式や債券の引受、M&Aなどの手数料により成り立っている。いずれも案件のサイズに一定の手数料率をかけて決まるものである。よって、「案件サイズ×手数料率×案件数」という数式で表現することができる。

一方、費用はおよそ半分が人件費である。投資銀行の人員は大きく「オリジネーション(営業・提案)」「ドキュメンテーション(書類作成・審査)」「シンジケーション(他証券会社・マーケットとの折衝)」に分けられる。

このうちアービトラージが存在するのは、やはり人件費であろう。収益の部分は、少なくとも国内においては経済成長が望めない中での拡大は難しい。人件費を代替するのはシステムである。ドキュメンテーションやシンジケーションははっきり言って定形業務であるため、一定の変数を入力すれば出来上がるシステムを、初期費用こそかかるが一気に導入してしまえばあとの大部分の人件費は不要になる。

また、オリジネーションについては、ある程度大きな案件が見込める会社については丁寧な対応が必要であるため、優秀な人材=高給取りが必要であろう。しかし、残念なことに中小の案件しか見込めない、あるいは今後数年全く案件が見込めない会社に対しても、高給取りのおじさんが手厚いサービスを行なっているのが日本の証券会社の現状である。これを全部カットして、提案はシステム化された定形のもので行えば良い。

人件費削減によりコスト競争力を付けたら、手数料率を下げてシェアを一気に拡大すればよい。顧客企業もコストに対しては相当敏感になっており、手数料率を下げれば提案が多少劣っていても、案件自体を落とす可能性は低いだろう。

では、なぜこのような流れが遅々としてが進まないのか。それは、人をなかなか解雇できない日本の証券会社にあって、手数料競争に走ってしまうと市場のパイ全体が縮小してしまい、共倒れになってしまう可能性が高いからであろう。実際、手数料の話になると、偉い人が出てきて、「市場のルールを崩さないように」と全くロジカルでない意見がまかり通ってしまっている。

しかし、そうでなくとも日本においては市場のパイは縮小し、優勝劣敗が明確になるのは時間の問題である。ここで「優」となるためにも、いち早く経営の舵を切らなければならない。