「不親切教師のススメ」は

これからの教師が目指すべき

本当の意味での「親切な」教師の姿が描かれている

教師の仕事とは何か？

かつては、師は知識や技能を「持つ者」で

弟子、生徒は「持たざる者」だった

だから、弟子は師を仰いだし

師はそれぞれのスタイルで弟子を教え、導くのが仕事だった

その意味で、日本の教師は

明治以来、常に指導法を研究し

師だけが持つ知識・技能を

いかに分かりやすく伝授するかが問題であった

「授業」という言葉も

授けるわざ、という字が当てられている

「教授」や「指導」も同様だ

日本の教師の、組織的な指導法の研究は

他国に類を見ないもので

たぐいまれな成功を修めてきた

特に、公教育では

現在、ここまでうまくいっている国は

他に見当たらないそうだ

先生は、いかに楽しく分かりやすく教えるかに

全精力を傾けて、丁寧に教材の準備をし

子供たちに上げ膳据え膳のサービスを

「授業」と言う名のもと、進めてきた

自分が思った通りに導きたいから

丁寧にワークシートを作ったりして

失敗しないように、間違えないように

教師が引いたレールの上を走らせる努力をしてきた

そして、そういう準備を徹底的にして

自分の時間を顧みず、全てを捧げるような教師が

世間では「いい先生」と評価された

例えば、小学校ではどこも

運動会には「表現」という種目があり

学年児童が全員で、揃った演技を披露する

その、たった数分のために

教師は何ヵ月も前から、演目やBGM を慎重に選び

演技の指導法を検討し、自分でもさんざん練習して

運動会前の、大量の授業時間を割いて

何時間もの練習をさせる

子供は素直なので、自分の動きが全体の中で

どう見えるのかも知らず、あまり疑問を抱くこともなく

教師の言われた通りに動くように頑張る

そして、運動会当日、本番で

見事な演技を披露すると、

保護者も大いに喜び、喝采を送る

できた親なら、「ここまでのご指導、ありがとうございます」

などと、感謝の言葉さえかけてくれる

親は、いい先生にあたってよかったと

しみじみ思う瞬間である

ところでその瞬間、運動会がうまくいって

一番喜んでいるのは誰か？

教師は子供たちに、「よくやったね！

最高だったよ！」と賞賛の言葉をかけるが

この数週間、陰には

みんなと同じことが苦手な子や

大きな音に耐えられず、耳をふさいで

逃げ回っている子が必ずいて

発達に特性のある子にとっては

運動会前というのは一年の中で、最も辛い

地獄の日々を送っている子もいる

一体、誰のための運動会なのか？

学校の主人公は誰なのか？

学習の「主語」は、誰なのか？

これまでの150年、学校の主語は

子供ではなく、教師だったのだ

今、私たちが目指し始めたのは

主語を子供に返すことだ

だから、真に親切な「不親切教師」は

「いい先生」がやっていた「親切な」ことはしない

先回りして、レールを敷いてやるようなことはしない

「先生、これ！どうやってやるんですか？」と聞かれても

「ああ、それはね、こうやってやるんだよ。」と

手取り足取りして教えてあげるようなことはしない

「うーん、どうやってやるんだろうね？」と

問い返すだけだ

「不親切教師のススメ」の著者

松尾英明氏は、そういう実践を積み上げてきた

だから、子供を主語にした学校では

子供がどう育つかをよく知っている

以前、私の知り合いの教師が

「先生のおかげで」なんて言われなくていい

自分のことなど、忘れてしまうような教師になるのが理想だ

そう語っていたことがある

それを聞いたとき、私にはまだ強い抵抗感があった

でも、今ならその人が言っていた真意がよくわかる

教員は、潜在的に

世話をしたいのだ、そして、それを

「先生のおかげで」と誉めてもらいたいのだ

教師冥利、というのは

教師の自己満足以外の何物でもなかったのだ

さらに、今、

かつては師のみが所有していた知識・技能は

片手に収まる「スマートな(頭のよい)」機器に入っていて

誰でも気軽に手に入れられるものになってしまった

だから、これからは

知識の量ではなく、その知識や技能を使って

何ができるか、に重点がおかれるようになった

身に付けなければならないことが

コンテンツからコンピテンシーに置き換わってきた

これまでの教師主導型の授業や指導では

どんなに頑張っても、

どれだけいい工夫をしたとしても

限界がある

それは、うすうすと、誰もが知っていた事実だ

ビジョン（3)