先週、東武曳舟駅前で

N党の候補者（？）が立っていた

朝だけでなく、帰宅時にも立っていて

黄色いのぼりも上げて

サポーターと一緒に

NHK受信料を支払わないためのマニュアルと

玄関先にはりだすNHKは見ません、という意思表示の

ステッカーを配っていた

わりと感じの良い人たちだった

私はテレビはほとんどNHKしか見ていないので

もちろんのこと、受信料は支払っているし

その資金で、優れた番組を製作してくれていることに

いつも感謝している

１月１６日（月曜日）夜１０時から放送された

「映像の世紀　バタフライ・エフェクト」は

世界中の貴重な映像を集めて編集した

本当に素晴らしい作品だった

２００１年１月２６日JR新大久保駅　

韓国人留学生のイ・スヒョンさん（２６歳）は

ホームから線路に落下した男性を救うため

もう一人の日本人男性とともに

自ら線路へ飛び降りた

何とか転落した男性を助けようとしたが

間に合わず、結局３人とも

命を落とすことになってしまった

電車が突入してきて

どうにも救うことができないと分かったとき

スヒョンさんは
両手を広げ電車を止めようとしたという

「日韓の懸け橋になりたい」

そう言って日本に留学に来ていたスヒョンさんのことは

その後、書籍や映画も作られ

日韓で語り継がれることになる

それから６年後の同日

２００７年１月２６日　JR上野駅で

再び一人の男性がホームから転落した

その場にいた３人の男性が飛び降り、救出成功　

今回は、間一髪助けることができた

救助に飛び降りたうちの一人

山本勲さんは

その数日前にスヒョンさんのお母さんの書いた本を

読んだばかりだった

極限状態にあって、人は最高の勇気を発揮することがある
その勇気は次の誰かを動かしていく
「勇気の連鎖」
巨大災害・戦争
勇気のバトンは次々と受け継がれ

絶望や憎しみの中から人々を立ち上がらせてきた

【Crisis 001　　１９０６年４月１８日　サンフランシスコ大地震】

マグニチュード７．７を越す巨大地震が

アメリカに西部最大の都市サンフランシスコを襲った
死者３０００人超　人口の半数以上の２２万人が家を失った

この時市当局は

民衆がパニックに陥り暴動や略奪に走ることを恐れ

怪しい人物は即座に射殺してかまわないという殺人許可を出した
そして火事場泥棒とみなされた人物は射殺され

その数は５００人に上ったという

しかし地震から数日後の町の様子を記録した映像には

パニックとはほど遠い光景

力を合わせがれきを片づける市民の姿
廃墟をバックに路上に出したテーブルで

お茶を楽しんでいる人々の様子が映し出されていた
笑顔さえも見える
家を失った女性が

空き缶一つとパイ皿一つで始まった炊き出し所は

やがて３００人に食事を提供するようになり

スープキッチン「パレスホテル」と呼ばれるようになった
その光景を見ていて一人の少女は、後に

「覚えているのは地震の後　

善を行うことの喜び

分かち合うことの、

自分が持っているものを差し出し分かち合うことの喜び」との記憶を

語っていた

その少女は、当時８歳のドロシー・デイ

【Crisis 002　　１９２３年９月１日　関東大震災】
日本の首都を襲った大地震によって

２１万棟が全焼し死者は１０万人にもなった

混乱の中朝鮮人が襲撃され
犠牲者２３１人に上った

その後の被災地を映し出した映像には
避難所となった日比谷公園で　

汁粉、ライスカレーをふるまう屋台　

持てる者は持たざる者に差し伸べ

廃墟の町で支えあう様子が記録されている

実は関東大震災の発生は予言されていた
東京帝国大学・地震学者　今村明恒教授は
ほらふき、と批判され、

その訴えはそのころの市民には届かなかった
しかし今村は、大地震に備え特別な地震計をつくっていた
関東大震災では、あまりの被害に

元から設置されていた測定所はほとんど壊滅的な状況だったが

今村の地震計は、その時の地震の規模を測定していた

「意見が当時

世人の容るる所とならなかったのは

全く自分の研究の未熟と

自信の薄かったことによるので、

思へば思へば実に残念で堪らぬ」

今村は被災地へ何度も足を運び

被害を記録して歩いた

その間に見た市民の様子
「それは斯かる世界開闢未曽有の大地震に遭遇しても

わが東京市民、老幼男女、

沈着にこれを凌いだといふことにある　

自分は実際今日まで喪神し　

或いは号泣した人を見ないばかりか　

罹災者は何れも

平日以上に緊張してゐる様に見受ける」

今村はその後全国各地を訪れ講演して回り、

防災映画「地震と震災」も作った　

無用な恐怖心を取り除き、

地震とは何かを子どもにもわかるように解説した
そして、次は西日本に南海地震が起こると予測した　

私財をなげうち、８か所に観測所を設置した
しかし太平洋戦争の開始で、観測は中止され、

戦争の真っただ中

最悪の形で今村の予測は的中した　

１９４４年と４６年南海地震　

防災対策はまたしても間に合わなかった

今村は亡くなる４か月前　

震災共同募金を呼びかけていた

「地震は人の力で押さえつけることができませんが

震災は人の力で防ぎとめることができます

老幼男女　力のあらん限り

震災をできるだけ軽くするために

勇敢に働かなければならない」

今村は自らに課した使命を果たすことはできなかった　

しかしその執念は受け継がれ６３年後多くの命を救うことになる

【Crisis 003　第二次世界大戦】
１９４０年９月７日、１９４１年５月１０日

８０００トンを超える爆弾がロンドン市内に落とされ

２万人が犠牲となった
チャーチルは、ヒトラーが

ロンドンの市民を恐怖に陥れると懸念したが、

市民は復興のために力を合わせ、

女たちは食料を手に入れるため整然と列を作っている　

少女たちはメッセンジャーガールとなり通信網を補った　

夜、ドイツ軍の攻撃が始まると

人々は地下鉄の駅に集まり避難した　

その時のロンドン市民の声

「４つも爆弾が落とされ

巨大な穴が開いても負けなかったわ　

「もう安全だ」というまで夜通し歌い続けました」

そして、夜が明けると

人々はそれぞれの職場にいつも通り向かった
店も変わらず営業を続けた　

「窓がなくとも私たちはここにいる

（The Window Has GONE
BUT We're still HERE
Business As Usual

4 Course Lunch See Menu!）」

アメリカ軍兵士・チャールズ・フリッツは

被災地の状況を調査するためにロンドンに来ていた

「このような状況の下では国民はパニックに陥り、

モラルや団結力を失っているものと推測されます。

しかし、実際には

輝かんばかりに幸福な人々が

最大限に生活を楽しみ、

驚いたことに陽気さと愛に満ちた人生を

謳歌していたのです」

ロンドンと同じことが

１９４５年のドイツ・ベルリンでも起きていた
残された映像には、

がれきをバケツリレーで運び出す女性の姿が写されている

フリッツはドイツでの空襲の効果も調査していた
その後、災害研究者となったフリッツは、

危機に直面した市民の姿を分析し論文を発表する　
「危機や喪失、欠乏を広く共有することで

生き抜いた人々の間に親密な、

とりわけ集団としての連帯感が生まれ、

人々は普段よりも気さくで思いやり深く親切になる。

災害はたとえ一時的ではあっても

社会的なユートピアといえるものを生み出すのだ」

【Crisis 004　冷戦下の核開発競争１９４５－１９８９】
戦争が終わっても平和は訪れなかった　

米ソの核開発競争は激化した

アメリカは核戦争を想定した避難訓練を全国で実施　

ニューヨーク州では法律が制定され、避難訓練への参加を義務化された

これに反対し、訓練への参加拒否を訴える女性が現れた　

それはサンフランシスコ大地震で被災したドロシー・デイだった

ドロシーにとって、

この避難訓練に参加することは、核開発を容認することになる

「ヒロシマから１０年　戦争ごっこへの参加を拒否する」というプラカードを掲げて

デモを行い
市庁舎前の座り込み、何度も逮捕された

ドロシーは

幼いころの大地震の記憶から

危機に立ち向かう人間の勇気、善なるものを信じていた
「私が信じているのは奇跡です　

いつか戦争を終結させるほど

大きな抵抗が起こると信じているのです」

そのデモには、子どもを連れた母たちが参加するようになり　

２０００人に膨れ上がった
その後、核実験反対のデモは

日本、ヨーロッパ、アメリカ、世界各地で毎日のように続いた

１９６１年になると世界規模に広がり　

アメリカの避難訓練は廃止され、

部分的核実験禁止条約が１９６３年８月・モスクワにて調印され　

初めて核開発に歯止めがかけられた

一人の女性の信念は

巨大なうねりを巻き起こし世界を動かした
「地震について一番はっきりと覚えていることは、

そのあとに誰もが温かく親切だったことです。

明日のことを考えず、わが身を削って捧げました。

戦争は平和のための行いとは全く逆の行為です。

その気にさえなれば

人々は憐れみと愛情をもって

互いをおもいやることができるはずなのです。」

ドロシー・デイは１９８０年１１月２９日永眠した

【Crisis 005　アメリカ同時多発テロ　２００１年９月１１日】

ニューヨークのシンボルでもあった

世界貿易センタービル　北塔に

ジェット機が突っ込んだ

その直後に撮影された映像には
パニックになることなく

整然と譲りあいながら避難する人々の様子が映し出されていた

７１階から避難した男性の言葉

「階段の吹き抜けでは、

人々はお互いにととても美しく接していました。

必要な時は一列に並び人を通しました。

誰も相手の肌の色や宗教を考えようとはしませんでした。」

そのあと、南塔にもジェット機が突っ込んできた

南棟にある投資銀行に働いていたウェルズ・クラウザー２４歳は

飛行機が衝突した所よりも上の１０４階にオフィスにいて無事だった
家の留守電には

母親にあてた無事を知らせるボイスメッセージが残っていた

ウェルズは非常階段で避難を開始した

そして７８階にたどり着いたとき、降りるのをやめた　

炎の中取り残されている人たちを助けるために　

ウェルズは赤いバンダナで口元を覆った

７８階の人たちの証言
「知らない男の人が扉の所にいて

「こっちだ！」というのが聞こえました。

扉の向こうに光が見えたのです。

彼は赤いバンダナで顔を覆っていました。」

「梁も落ち炎が燃え広がる中で

「向こうはもうダメだ　こっちだ！」と
彼が言ったのです。」

「彼はやせた黒人の女性を背負っていました。

女性を肩から降ろすと「僕は上に戻る」と言いました。

それが彼を見た最後でした。」

ウェルズに命を助けられたと証言した人は１２人に上る

激突から５６分後、南塔が崩壊
巨大な粉塵の塊が町を襲った。

ハドソン川には近くにいたフェリーやボートが集結し、

９時間にわたって救出活動を行い５０万人を避難させた

粉塵が収まるのを待って、生き埋めになった人の救出が始まる
一般市民も加わって、バケツリレーで瓦礫を運び出した
半年後、瓦礫の中から遺体が見つかった　

ウェルズ・クラウザーだった
発見が遅れたのは遺体が瓦礫の一番下にあったからだ　

それは、ビルが崩壊したとき

彼は1階ロビー近くにいたことを意味する　

逃げようと思えば助かったはずの所にいたということだ

ウェルズは少なくとも３回、上層階と往復し最後の瞬間まで救出活動を続けていた

子ども時代、消防隊員だった父親にあこがれたウェルズ
赤いバンダナはその父からもらったものだった

事件から一か月後、アメリカはテロの首謀者をかくまっているという

アフガニスタンに攻撃を開始した

アメリカの世論も９割近くが報復攻撃を支持した

そうした中で報復にNOを叫ぶ人々がいた　

それはテロによる犠牲者の遺族の人たちだった

テロで夫を失った女性
「私はこれ以上無益な死を望みません。

大統領、あなたが攻撃を正当化するために使っている

犠牲者のリストから

どうか、私の夫の名前を外してください。」

１５人の遺族たちは平和団体PEACEFUL TOMORROWSを発足

２００３年２月１５日にも、ニューヨークでのイラク戦争反対デモを行った

このとき１０万の人々が通りを埋め尽くした　

この動きは世界各地に連鎖

参加した市民は世界で１０００万人に上ったと言われる

【Crisis 006　東日本大震災　２０１１年３月１１日】
大津波に襲われながら人々の命を救った集落　

岩手県大船渡市綾里地区では

人口の９９％が助かった

明治時代には計測史上最大となる

３８メートルの大津波を記録するなど

多くの被害を受けてきた綾里（明治三陸大津波１８９６年）

この地に足しげく通ったのがあの今村明恒だった

関東大震災から１０年後、

昭和三陸大津波（１９３３）が発生　

今村は復興アドバイザーとして綾里に通い続けた

今村が住民たちに訴えたのは集落全体の高地移転だった

今村の熱意は人々を動かし、

岩手県だけでも３０００戸が高台に移転した

「もう君たちの代にはこんな大津波はないだろう。

しかし子孫のためをかんがえるんだ。

村の百年の大計どころか、

百世にわたる仁政ではないか」

１９４８年に亡くなった今村を引き継いだのが

綾里出身の作家・津波研究家の山下文男だった
山下は津波研究を進める中、

会ったこともない今村を

師と仰ぐようになった
「調べれば調べるほど

私はすっかり今村明恒に傾倒してしまった。

今日高所に立ち並ぶ郷里の街並みを眺めるたびに

「子孫のために」と住民に熱っぽく説いた

今村明恒の先見の明と

地震学者としての情熱に思いを致すのである」

山下はその後、一人ひとり、めいめいに高台に避難する

「津波てんでんこ」を提唱

そして３・１１　

綾里に押し寄せた津波は４０メートルを超えた　

しかし、山下の提唱した「津波てんでんこ」を守り避難した人々はみな助かった
高地移転した家々にも被害はなかった

山下はその時

陸前高田市の岩手県立高田病院に入院していて被災したが

屋上への避難の際スタッフにこう頼んだという
「津波の写真をとってくれ　

津波がどう押し寄せたのか
写真に残して伝えてくれ」　

山下は９か月後、８７歳で永眠した

１６年前、線路に落ちた人を助けた山本勲
助けだした男性はその後

意識が戻ることなく息を引き取っていた

ほどなくして、山本は

男性の妻から手紙を受け取った

「主人との別れの時間が持てましたことが嬉しく

深く感謝を申し上げます」
山本は当時

自分自身が失意の底にいた

自分が逆の立場だったかもしれないと思い起こす

２０２２年１０月１２日　LSHアジア奨学会授与式
代表を務めるのはシン・ユンチャンさん（スヒョンさんの母）
「皆さんに支えられ

私は悲しみを乗り越え

この奨学金を今日まで続けることができました」

事故直後、スヒョンさんの勇気に感動し

日本中から多額の義援金が寄せられた

この奨学金制度は、そのお金をもとに始まった

これまで支援してきた学生は１１０９人に上る

スヒョンさんの「日韓の懸け橋になりたい」という夢は、

時空を超え、確かに受け継がれている

NHK 映像の世紀 バタフライ・エフェクト 「危機の中の勇気」

NHK 映像の世紀　バタフライ・エフェクト　「危機の中の勇気」　