ところでウイーン国立歌劇場の衣装はすべて
自前ではなく、劇場側で用意したものだ。
衣装だけではなく、かつら・靴・靴下・帽子etc.
なども、その演目に合わせてセットで用意されている。
だから歌劇場の中には、デザイン・裁縫・靴などの
専門の人が常に働いている。
コーラスの衣装に関しては、
わたしが勤めはじめた頃はまだ
特定の個人用とはなってなくて、
似たようなサイズの人で
持ちまわって使っていた。
ある日控室に行って、
わたしの名札のついた衣装を取ってみると、
(わたしはかなりぽっちゃりですが)
何んとも小さく細めのサイズのものだった。
「???」
わたしが首をかしげていると、
部屋の中にもう1人、首をかしげて
悩んでいるコーラス員がいた。
ハンさんという小柄な韓国人の女性で、
彼女の名札のついた衣装は彼女には
えら~~く
大きいものだった。
お互いにはっと顔を見合わせて、
互いの衣装を交換したのだった。
名札担当の人が「Han」と「Hori」を
読み違えたのだと思う。
しかし何年か後には、
衣装にはっきりとコーラス員の名前が
縫い付けられるようになった。
またそれまでの古い衣装から新しい衣装に
つくり直そうということになった。
それで衣装係の人たちが
個別にコーラス員を部屋に呼び入れて
新たに採寸していたのだが、
わたしは何故だか、その日程を知らず、
採寸に行かなかった。
すると衣装係の人たちは部屋を出、
歌劇場の建物内で
まだ採寸の済んでいない団員を見つけては、
その場で採寸していた。
わたしはたまたま社員食堂で食事をしていた時、
衣装係の女性が二人突然現れ、
いきなり採寸し始めた。
それも大声で
「バスト××cm!
ウエスト○○cm!
ヒップ△△cm!」
と出番待ちの人でごったがえす
食堂の中でどうどう読みあげ始めた。
しかも助手が
「バスト××cm!
ウエスト○○cm!
ヒップ△△cm!」
といちいち
大声で繰り返すもんだから、
その辺にいた
親父たちはみんな笑っていた。
私のスリーサイズが
あんなに大勢の前で
しかも大声で
公表されてしまうなんて
プライバシーの侵害だー!