1993年7月21日 東京プリンスホテル 

午前6時を待っていたかのように電話が鳴る

当時は携帯電話も無いので、電話交換の女性の声に驚いて出ると親友まり子さんの声がした

「ひとみさん今日日本を立つのよね 何時の便?

気を付けて行ってね 一時帰国の時はすぐ逢いに行くから ああ…本当に気を付けて…」

思いの丈を一気に伝えると涙声

彼女は職場の先輩だが互いに一人暮らしと言うこともあって苦楽を共に励まし合ってきた 

先日新婚夫婦の新居にお邪魔し別れを惜しんだばかり 別れ際は駅のフェンス沿いを走って見送ってくれ 映画のワンシーンの様な別れをしたばかりであった 

「大丈夫よ 永遠の別れになる訳じゃあるまいし  お手紙書きます」

私たちはすっかり起こされてしまったので身支度をする事にした

昨日は伊丹空港で私の両親や数人の友人達としばしの別れを惜しんだところだったが 英国暮らしがそんなに大変なものとは思っていたかったので此方の方が貰い泣きをした 

「今日の予定は…」夫が珈琲を淹れてくれる

テーブルの上には昨日貰った百合のブーケがグラスに入れてあった 

「このお花お義母さんに貰って頂くわ 今日は東京組のお見送りね」

珈琲を飲み干すと窓の外には東京タワー🗼がすぐそこに見えた