すぐ近所のぼろ屋に

お婆さんが引っ越して来られたことがある。

いい人で、

うちの幼い息子と娘は

しょっちゅう行って

お菓子をもらい、

何を話していたか知らないが、

何時間も

遊ばせてもらっていた。

 

 

ところがある日、

一人のきたない男が来て、

居座った。

 

お婆さんはすぐに

どこかに姿を消された。

 

その男は、昔から、

お婆さんにつきまとっていた

朝鮮人だった。

 

テレビドラマは韓国映画以外見ない、ほどはまっている。特にトッケビはおすすめ。

 

私たちはふつうに接して、

差別することはなかったし、

ときどき、

ご飯なども差しれてやった。

 

石段に腰掛けて、

話し相手にもなってやった。

 

半年ほどして

その男が

「今までのお礼にこれをあげる」

といって、

ずしりと重い金属製の箱をくれた。

 

 

開けてみると

中に、歯の技工士の道具が一式入っていた。

「これはあんたが仕事するのに必要だろう」

というと、

「もう使わないから」

と笑った。

 

それから一カ月、

男が二・三日外出しないので、

声を掛け、

返事がないので、

部屋に上がってみた。

 

すると玄関の横で

服を着たまま死んでいた。

 

すぐに、警察に知らせて、

医者が来て、心臓マヒだとわかった。

 

自分の身体の調子が悪く、

先がないことを知って、

大切な道具をくれたのだろうか。

 

 

警察が仕切って

そのぼろ屋で葬式をして、

町内の組内の者も出席したのだが、

そのときの

お経を唱えるのが

嫌そうな

和尚の表情が印象的だった。

 

彼がくれた

技工士の道具一式は

まだ、持っている。

 

<今の運勢>

「夬(かい)」。決心するときはできるだけ一人で、あるいは身内だけで密かに決める。相手に漏れるとめんどうである。危険だと思えばそのまま進まずに、別の方向に向かうこと。