家内の旅行話は面白いので、

二人きりになると、

お茶を飲みながら、

こちらからせがんで、

よく話させる。

 

東欧のハンガリーの

ある村の小さな宿に着いたときは

すでに暗くなっていた。

 

泊り客は他になく、
老夫婦が夕食を作ってくれ、

台所で食事が終わっても、

何だかいつも誰かに見張られているような気配がしたそうだ。

二階の屋根裏のような部屋に案内されたが、

夜中に事件が起きた。
何かが音もなくすうーと窓から入ってきて

ベッドのそばに立った。

 

それはしばらくこちらを見ている。

金縛りにあって体が動かない。
やがて

胸に乗ってきて押さえてくる。
起き上がると、

それはすうーと窓から出て行ったそうだ。

 

朝起きて窓を開けてみると、

そこは一面のお墓だった。

 

しかし、

西洋のお化けは怖くないらしい。

「見知らぬ東洋人だったから見に来たのよ」、

と家内は言った。

 

旅行中は便秘になることが多いので

家内は、

日本製の漢方の便秘薬を、

かわいいビンに小分けにしておいて

寝る前に飲む習慣があった。

そのビンを

部屋に置き忘れたまま

宿を出て、バスに乗ってしまった。

 

せんな末という粉薬である。
それを飲んでいる東洋人の娘の姿を、

民宿の老夫婦は

こっそりと見ていたかも知れない。

 

これは何の粉だ、と思ったに違いない。

麻薬か?薬か?

あとを想像すると、楽しくなる。

 

もし、ためしに飲んだら・・

下痢を起こして・・

あの東洋娘は毒をなめていたのだ、

と、

魔女の一人として、

語り伝えられることになった、

かも知れない。

 

<今の運勢>

ちょっとしたいざこざがある。魅力ある女性同士が争う意味もある。