高校時代に、

校内の図書館で、人生劇場という本を見つけて読んだ。

後に任侠映画として大ヒットするが、

映画は一度も見たことがない。

 

この本の中に飛車角という男が出てくる。

 

物語に似て、鶴田浩二と佐久間良子は同棲していたそうである。

 

飛車角は花火師でもあり、

最後は花火で腕を吹っ飛ばされる。

 

女がいたが、その女は

飛車角の留守中に前の男に見つけ出されて

連れ去られてしまう。

汽車の窓から、飛車角のいる町を目で追う姿が

印象的である。

 

うちの近所に70歳ほどの女性が住んでいた。

良い人で、うちの子どもたちは

よく上がり込んで、

菓子を貰ったりしていた。

 

若いときの写真を見せてもらったが、

のけぞるほどの美人である。

彼女は、夫をなくしたあと、

子どももなく、

各地を転々として来たらしかった。

 

その人の家に、

ある日、

1人の男がやってきて上がり込み、

住み始めた。

朝鮮人だった。

入れ替わりに女性が姿を消した。

 

飛車角の女を思い出した。

新しい人生を歩もうと逃げ回る女を、過去が追いかけて来たのだ。

 

女も年を取っている。

逃げ疲れたのか、家に戻って来た。

やがて、足に壊疽ができて、入院して亡くなった。

 

男は歯科技工士をして生計を立てていた。

なるほど、この仕事なら、

女を探して、

全国、どこへ行っても、

食っていける。

 

ある日、男は私に、

その歯科技工士の道具一式をくれた。

私は、いらない、なぜ、と思った。

 

その数日後、彼は死んだ。

家から出て来ないので、上がってみると、死んでいた。

 

市役所が葬式一切をやってくれた。

町内の人々が、家の前に集まって

若い僧侶が、

苦虫をかみつぶしたような顔で唱えている

読経を聞いた。

 

歯科技工の道具はピカピカだった。

黒い革袋に入っていて、

ずしっと重い。

 

今は、道具入れの隅に

放りこんだままである。

 

https://www.youtube.com/watch?v=MPJCOspm7mM

前の東京オリンピック頃だと思う。

 

<今の運勢>

蹇。山の上に水がある卦。今日は雨だ。あるいは寒さで足が凍える。出て行かないほうが良い。いったん立ち止まって、今進もうとしている方角と違う方に向かうことを考慮すべきである。