外から子供たちのはしゃぐ声や、大人たちの笑い声が聞こえてくる。
花火大会はどうしてか胸が騒ぐ。
人手溢れる道さえ、この日だけは許せる気がする。
花火大会に行く、とお母さんに言うと、去年買った浴衣を出してきた。
「着ていくでしょ?」と当然のように言い、帯や下駄の用意を始める。
去年までは花火大会といえば毎年必ず浴衣を着ていた。
お気に入りの浴衣に袖を通す瞬間、いつも心が高ぶった。
だけど。
「今年は着ないことにしたんだ」
「そうなの?」
お母さんは残念そうに手をとめ、浴衣を胸に抱えて立ち上がった。
背中がしょんぼりしてみえる。
もしかしたら、あたしの浴衣姿を見るのが好きだったのかもしれない。
こっちの帯のほうがいいとか、髪形はこうしたほうが可愛いとか、お母さんはいつも色々手伝ってくれていた。
でも今年は着てはいけない気がした。
だってきっと、アカリちゃんは浴衣を着てこないから。
あたしひとりが浴衣を着ていくのは、違うと思った。
待ち合わせ場所近くの土手を越えたところに、新とアカリちゃんは立っていた。
溢れる人ごみの中で、2人はぽつんと孤立してみえた。
ラフなデニム姿の新と、水玉模様のワンピースを着たアタリちゃん。
やっぱり浴衣を着てこなくて良かった。
「花火大会にいかないか?」
新にそういわれたのは数日前のこと。
「アカリが大川も誘えってうるさいから」
最後に早口でそう告げて。
アカリちゃんがあたしを誘おうといってくれたことも嬉しかったけど、新がそれを実行してくれたことが何より一番嬉しかった。
初めて施設を訪れたあの日から、あたしはちょくちょくアカリちゃんに会いに行った。
ままごとをして遊んだり、新がアイトのない日は3人で同じ時間を過ごしたりもした。
それから、今日の花火大会。
幸せだった。
幸せすぎて、怖かった。