好きな人とするのと、

そうじゃない人とするのは

なんでこんなに違うんだろう。



こんな感情があるのは、人間だけだよね。













5日の朝、ゆきと別れて

あたしは歌舞伎町に向かった。




翼くんとの待ち合わせに間に合うように。







今はない、セントラルのでかマックで翼くんを待った。






現れた翼くんは、高校生みたい。


Tシャツにハーフパンツにスニーカー。


セットしてない金髪。





あたしロリコンか?笑








会った瞬間に満面の笑顔で、

「お誕生日おめでとう!!!!ニコニコ




いつでも直球。



とりあえずマイアミでパスタを食べた。




そこで色んな話をした。





翼くんは確か20歳だったけど、


なんと子供がいた。




高校生1年生、地元の青森にいるときに、

2歳上の彼女に子供ができた。
父親はあなたじゃないと言われて、一方的に連絡を切られた。



その1年後、いきなり子供を認知してくれと元彼女の両親から連絡が。




元彼女は子供を残して家出してしまっていた。



自分の子供かもわからない赤ちゃんを、翼くんは迷わず認知したそう。


その後頼み込んで、生まれたばかりの子供を引き取った。



高校を辞めて働きながら、実家で赤ちゃんを半年ほど育てた。



引き取って半年経ったある日、いきなり元彼女から、子供を返してほしいと連絡が来る。




若い彼には親権争いをするなんて思い付くこともできず、



赤ちゃんは元彼女に。




ただ、認知をしている以上彼の子供だということで、


今でも養育費を青森に送っているんだとか。









この壮絶な話を、


この時の私はコロッと信じてしまっていた。





今なら、98%くらい嘘だと思って聞き流すことができるんだけどね。




後から、翼くんはとんでもないホラ吹きだって発覚するのだけれど。

この話も、結局嘘だったのかなぁ…。







ご飯を食べてから、行くあてのない私達はカラオケに行った。



最初は普通に歌ってたけど、

やっぱり狭い密室に2人でいたら、まぁそうなるかって感じで、



キスをした。


今度は、こないだみたいに短くない。



長い長いキス。



ぎゅってされた。


そのまま体に触れられたから、さすがに止めた。





「カラオケではマズイってあせる




「…じゃあ、ホテル行かない?」







「…いいよ。」






半分くらい、こうなることわかってたから。





ベッドの中で、ぼんやり考えていたのは悠弥のこと。






悠弥に出会ってから、悠弥以外の人とすることなんてなかったから。



変な話だけど、私の貞操観念はそんなに堅くない。



悠弥と出会う前は、彼氏じゃない人ともしてたし、



1晩限りの関係とか、なかったわけじゃない。





それなのに、

悠弥と出会ってからは、他の人に触れられるのも嫌だった。






不思議。





淋しさを埋めるためなら、なんでもできるんだな。




でも、終わった後の虚しさは半端なかった。






さすがのあたしも翼くんが自分を好きだなんて思ってなかった。




いわゆる「趣味枕」なんだと知ってたから。







歌舞伎町は本当にこういう誘惑や罠が多い。




信じていた人が突然牙を剥く。






歌舞伎町で働き始めてから何度もこんなことがあった。




その度騙されずに済んでいたのは、




悠弥が好きだったから。






そうでなければ、とっくにどこかのホストに騙されて、




ボロボロの人生を送ってたに違いない。






悠弥に嘘をつかれたから、ホストの怖さや嘘を知れた



美化して考えれば、悠弥に守られていた。




皮肉なものです。












その後、翼くんと別れて






私の誕生日は幕を閉じた。









悠弥からのメールは、返事をしないままだった。








続く
4日は、ゆきが祝ってくれた。




前から、4日から5日に変わる瞬間はクラブで過ごすのが定番になってた。




ゆきは優しいから、いつも彼氏がいない私を助けてくれる。





クラブに入って、やっぱり何人かにナンパされた。




でも、全然楽しくない。




暗くてタバコくさい空間に、


レーザーの光に爆音のR&B。





嫌でも、悠弥に会った時のことを思い出しちゃう。




クラブに入った瞬間に、
射ぬかれた悠弥の鋭い目。

一緒に飲んだチャイナブルー。


キスした時の苦い味。







泣きそうになった。

なんで私は、こんなに意地を張ってるんだろう。






ゆきをダンスフロアに残して、レストランフロアに移動した。




座ってチャイナブルーを飲んでた。

泣いたらダメだ。
ゆきが心配する。
誕生日なのに泣いたら台無しだ。




日付はもう5月5日。



25歳になっちゃった。






ひとりぼっちで座ってる様子のおかしいあたしに、何人か声をかけたけど、




その度に苦笑いでやりすごす。





ゆきのいるフロアに戻ろう。







携帯が鳴った。




メールだ。






From:池田悠弥


題名:ケーキ誕生日おめでとうケーキ



「また一つ歳とっちゃった!?にひひ音符
おめでとうニコニコキラキラ
いつもまりには迷惑ばっかかけてゴメンなぁダウンあせる
けど俺だっていつもは言わんけど、まりが大阪に来てくれるのをいつも楽しみにしてるんだぞ長音記号2あせる
俺あんま愛情表現とか出来ひんし、素直じゃねぇし、頑固やけど今日だけは言うたるわニコニコキラキラ

好きやで音符

って言うても信用出来ひんと思うけどさガーン
まぁこれからもよろしくニコニコ
こんな事しか出来んくてゴメンなぁm(__)m」








ずっと我慢してた涙が、ボロボロとこぼれてく。


携帯の画面が滲む。




あの時生まれた感情は、なんて言えばいいんだろう。




誕生日なんて覚えてないって思ったのに、メールが来たことはすごく嬉しかった。


いつも短文メールで、絵文字も少ない悠弥が、
頑張って作った長文も嬉しかった。





でも、好きでもないのに好きなんて言わないで。


心にもないこと言わないでよ。






もう、今の私には

このメールを素直に受け取る心の余裕なんてなかった。



ひねくれないと、平常心を保てなかった。





好きすぎて苦しい。

素直に受け取れない自分が悲しい。








メールに返信はしなかった。





何回も何回も読み返したけど。





今でも、このメールだけは保護してある。








今年の誕生日にも、読み返したよ。










#5に続く






今でもある私の変なこだわり。






誕生日にホストクラブには絶対に行きたくない。





それなら仕事してる方がマシ。




でもそんな変な意地張らずに会いに行けばよかったかななんて今は思う。

だって、自分が生まれた日だから、


自分が好きなようにしたらよかったなって。











誕生日をどう過ごすか翼くんに聞かれて、私は口ごもった。




悠弥には店に来ればいいのにって、2週間くらい前に言われてたけど、


仕事をするって言って断ったんだ。




なんだか、店でだけ誕生日を祝ってもらっても意味がない気がしたの。



嫌々祝ってもらいたくなかった。






「うーん…。4日の夜から友達とクラブに行くけど、昼は何も予定ないよ…」




「本当?じゃあ俺と一緒に過ごそう音符



断る余地はなかった。




悠弥の店には行きたくなかった。


悠弥の誕生日の一件が消えたわけじゃなかったから。

誕生日にひとりぼっちなんて絶対に嫌だ。






「うん、いいよニコニコ









自分がやってることがめちゃくちゃだってわかっていても、


寂しい気持ちが紛らわせればそれでよかった。









3日は仕事をした。


ゴールデンウィークだから結構な客入りだった。




ある1人のフリーのお客さんに付いた。


その人は、話を聞いてみると20歳。

森田剛にちょっと似てる、ギャル男っぽいかんじ。

学生やりながら、友達と会社をやってるらしい。



若いなぁ…と思いながら接客してると、ふと年齢の話になった。


「あたしね、5月5日が誕生日なの。あと2日で25歳だよ~ガーン


「えっ、マジで!!
おめでとう!!!!!!!!
すごいじゃんキラキラキラキラ


なにがすごいのかは良くわからないけど。笑


「何でも好きなもの飲んでいいよキラキラ


「マジで~音符じゃあシャンパンハートとか言っちゃうよ~」


冗談のつもりだった。
だって残り時間は多分あと15分くらい。フリーのお客さんだし。




「いいよ音符頼もう~アップ



「えっっ!?あせる冗談だよあせる

「いいよ、頼もうよ!!
誕生日なんだからお祝いしないとニコニコ



「いいよ、悪いもんあせる



…我ながら水商売やってる人間の発言じゃないよなぁと思うガーン


でも今でもそうだけど、ボトル入れてもらうのは本当に嬉しい。


1人1人に感謝してます。



あんまりお金使わせたくない。
無理はしなくていいと思う。





「いいから入れるよ!!
すいませーんパー




勝手にボーイを呼ばれちゃった。




「リステル1本」

「ありがとうございます、8千円ですねー
お味はいかがなさいますか?」




リステルはスパークリングワインで、色んなフルーツの味があるの。




「ほら、何味がいいの?ニコニコ



「…じゃあ…ストロベリーで…」






その人はずっとニコニコしてた。





今の今まで、フリーのお客さんにフルボトルを入れてもらったのはこの人だけ。





それまで、本当にバイト気分でしか仕事をしてなかった私には

初めての感覚だった。






初めて、悠弥の気持ちがわかった。






嬉しいけれど、無理はさせたくない。



売り上げをあげなきゃいけないけど、お金を使わせるのは心苦しい。





でも、入れてくれた人には最大限の感謝をしたい。








ねぇ、悠弥も、



あたしがピンクを入れた時、そう思ってたの?





それとも、そんな感覚はもうマヒしてたのかな?









#4に続く






そのお店は、入った瞬間




「えっ???」






って思った。












汚いビルの地下で薄暗い入り口。




ちいさなドアを開くと、ちいさなカウンター。




壁も、なにもかも真っ黒で、暗い。






ヘアメイクをしていないからまっすぐでぺったんこな金髪の男の子が沢山。



みんな色白で細い。
不健康な感じ。






座っているお客さんは一人だけ。

スティッチの着ぐるみパジャマを着て、すっぴんの女の子。





何もかもが悠弥のお店とは違いすぎて、





思わず後ずさりをしてしまった。








「おー、茜ニコニコおはよー」






入り口のカウンターにいた、金髪ぺたんこ頭の男の子が優ちゃんに話し掛ける。




「おはよーニコニコ



優ちゃんって茜って名前なんだな…







「今日は初回の子連れてきたよー」






「茜ちゃんでかしたー!!


何がだよ。






とりあえず入り口で、絶対入りたくないって思ったけど、



ここまで来て入らないわけにいかないし。






「お客様ご来店でーーす!!




「いーらっしゃいあっせーーー!!!!








とりあえず感想は、



何もかも適当なんだなぁ、と。




悠弥のお店は、後から知ったことだけど、かなり厳しいお店だったらしい。


それに慣れていたあたしには、本当にひどい店としか思えなかった。




今は歌舞伎はこんなもんだと知ったけどね。



ただ、今でもこうゆう適当な店は嫌い。


接客や、内勤のしっかりした店が好きなのは、


確実に悠弥の店の影響だと思う。








その中で、送りにしたのは、

素朴な青森弁の残る男の子だった。


名前は翼くん。





ヒョロヒョロのもやしみたいな男の子ばっかりの中で、
色は白いけどがっしりした体。


ほっぺがりんごみたいに赤くて、
田舎くささは満点だったけど。


なんか可愛かったんだ。




「送り指名は誰にしますか?」


「…翼くんで。」



「えー!!意外ー」




優ちゃんが驚いてた。

そんなに驚くことかな?






戻ってきた翼くんは、さっきよりほっぺを赤くしてた。



「ありがとう!!なんで俺なの?びっくりしたよニコニコあせる
嬉しいけどニコニコニコニコニコニコ





なんかね、その素朴さがよかったんだよ。


だってお店には行かないしね。
悠弥がいるから。







翼くんとの出会いはこんな感じ。



彼の本性も、1年経った後わかることになるんだけど。

本当に人間ってよくわからないよね。











翼くんは店に来いとは言わなかった。


その代わり、店の近くで少しだけ会おうって言われることが多かった。

その度あたしは断ってた。


そうやって会って、そのうち店に引きずり込むつもりだって知ってたから。


店には呼ばないから、お前は特別だって言って、心を奪うつもりだって知ってたから。




いきなり店に呼ぶ人、そうじゃない人


歌舞伎町って色んなホストがいるな。









ある時も、翼くんに店前に来てって言われた日があった。



あれはなんでか忘れちゃったけど、その日は会いにいってしまったんだ。



きっとなんかあったんだろうな。
悠弥と連絡取れなかったとか。









「やっと会えたニコニコ



そうやって笑う翼くんは本当に素朴な感じ。




それから、仕事が終わったら、仕事中の翼くんに5分とか会うのが日課になった。





仕事が終わって疲れてる時は誰かに会いたくなるし、

その頃は友達少ないから、歌舞伎でひとりぼっちは淋しくて。




ある日、その日も仕事終わりにいつものように翼くんの店の下で会ってた。


そのビルの階段で話をしてたら、いきなりキスをされた。





!!!!



「ごめん!!でも俺、キスしたかったからあせる







…びっくり…。




悠弥が好きなのに、他の人とキスしちゃったよ。




でも、もうこの時は悠弥が自分のこと好きじゃないって知ってたから。


お客さんだって思ってるって知ってたから。





彼女じゃないって知ってたから。





キスを許しちゃった。



翼くんを好きなわけじゃない。

ただ、寂しかった。

悠弥が開けた心の穴を、なんでもいいから埋めたかった。





…それは悠弥じゃないと埋められないってわかっていても。











それから翼くんはあたしの中で
「特別」になった。



もちろん悠弥が一番だったけど。








ゴールデンウィークが近づいていた。




こんな不安定な精神状態の中で…










#3に続く