妊娠8週に入った。
朝、目が覚めた瞬間の気持ち悪さは相変わらずで、
今日も何も食べたくない一日が始まるのだと思った。
それなのに、なぜか気分は良かった。
理由はひとつ。
家族に妊娠を伝えたから。
本当は9週を過ぎてからにしようと思っていた。
でも、事情があって、勢いのまま祖母や叔母たちに報告した。
母はもういない。
だけど、祖母や叔母たちは、私にとって第二の母のような存在だ。
シングルマザーだった我が家。
私は親戚みんなに育ててもらったようなものだ。
今でも実家に帰れば、35歳を過ぎた私を子どものように迎えてくれる。
「もう大人なんですけど!」
と毎回心の中で突っ込むけれど、
それくらい愛情深い人たち。
その人たちに伝えられたこと。
電話越しに弾む声。
「よかったねぇ」と何度も繰り返してくれたこと。
それだけで、胸がいっぱいになった。
悪いことを考えようと思えば、いくらでも浮かんでくる。
でも、それはその時に考えればいい。
今はただ、おもちちゃんと自分を信じる。
そう思えたからか、
朝はあんなに辛かった悪阻が、
少しずつ軽くなっていった。
気の持ちようって、すごい。
出勤途中、ふと
「パン屋さんのひと口ミックスサンドならいけるかも」
と思いついた。
買ってみたら、大正解。
1時間にひと口ずつ。
仕事の合間にパクッと食べる。
それだけで十分だった。
“食べられるものがある”
それだけで救われる。
そして夜。
なぜか頭に浮かんだのは、オムライス。
どこでもいいわけじゃない。
10年前に一度だけ行った、恵比寿の小さな洋食屋のオムライス。
帰り道とは真逆。
駅からも少し歩く。
金曜の夜で人も多い。
それでも、
「あそこのオムライス以外、考えられない」
と思ってしまった。
閉店1時間前。
テーブル5席とカウンター4席の小さな店。
私が入った時は一組だけだったのに、
あれよあれよという間に満席になった。
そして、目の前に運ばれてきたオムライス。
今日、どうしても食べたかった一皿。

ひと口。
…やっぱり、染み渡る。
10年前と何も変わらない味。
懐かしさと安心が、身体の奥にじんわり広がる。
不思議なのは、
きっと明日になったら、もう食べたいとは思わないこと。
悪阻の気まぐれ。
“今日だけの正解”。
帰宅後、眠さはピーク。
そしてやらかした。
エストラーナテープ4枚、全部剥がしてしまった。
明日が張り替え日なのに。
しかも明日から2枚に減る予定で、やったー!と思っていたのに。
100枚以上張り替えてきて、初めてのミス。
あと3回で卒業だったのに。
悔しい。
でも、まぁ、こんなこともある。
妊娠8週。
報告して、喜んでもらって、
悪阻に振り回されて、
オムライスに救われて、
テープを剥がしすぎる夜。
完璧じゃない一日。
でも、ちゃんと幸せな一日。
今はただ、おもちちゃんと自分を信じて。
8週目の夜は、
そんなふうに静かに更けていった。