縄文文化は世界で最も古い土器をもつ狩猟採集文化でした。
縄文時代の日本の人口はおよそ20万人といわれます。
縄文時代において東日本の人口は日本の人口の十分の八を占めたといわれます。
その文明の中心が東北だったのです。
縄文時代は気温がいまよりも2~3℃高く温暖でした。
その東日本の自然環境が、狩猟採集に恵を与えたのです。
鮭・鱒の遡上、兎や鹿の豊かな生息、ドングリや木の実の豊かさが西日本よりも当時の東日本が恵まれていたと考えられます。
紀元前10世紀頃より朝鮮半島から渡来した弥生人が稲作をもって九州に上陸しました。
西日本の人口が急激に増えるのは、弥生人が日本に入植した弥生時代からです。

今から5500年前から4000年前の青森県三内丸山遺跡では、周囲に環状の配石を持つ土坑墓とそうでない土坑墓があります。
このような差異は、埋葬された人の生前の帰属階層の差と考えられます。
また首飾りや腕飾り、耳飾りといったアクセサリーを付けて埋葬された人と、そうでない人がいます。
これらは階層差や社会的地位の差と考えられ、縄文の社会がまるっきりの平等ではなかったと言えます。


部族長や長老は権威を持っていたのです。
現代の衛生環境と比べものにならない縄文の環境で、平均寿命は30代半ばと考えられています。

 

宮城県気仙沼市元吉町の縄文時代晩期の前浜貝塚から、奇妙な葬法で埋葬された女性が発掘されました。
この女性は地面に楕円形に掘りくぼめられた土壙の中に四肢をかがめ、仰向けの姿勢で埋葬されていました。
驚くのは、顔のうえに一匹のイヌが乗せられていたのです。
女性の年齢は16歳くらいで、上顎の左右の犬歯と下顎の左第一切歯が抜かれていました。
縄文時代には、健康な歯を意図的に除去する風習がありました。
犬歯抜歯は子供から大人への移行を象徴する成人式で行われた儀礼のひとつ、通過儀礼と言えます。
この女性は抜歯が行われてからすぐに結婚し、さほど月日がたっていない時期に亡くなったと判断されます。
この女性が埋葬された土壙に接して、生まれて間もない赤ちゃんの骨が入った土器が発掘されました。
これから、この女性は出産の事故で亡くなり、赤ちゃんもすぐに亡くなったと考えられます。
出産以前に妊婦が死亡した場合、妊産婦から胎児を取り出して『身二つ』にしてから埋葬する事例は神奈川・新潟・高知・鹿児島の各地にみられます。
このような風習は北海道アイヌにもみられました。
例えば高知県では、妊産婦をそのまま埋葬すると胎児が邪魔になり、成仏せずにさまよいでたり、蘇生したりする事もあるとして鎌で腹を切り開き、籾がらを胎児のかわりに腹の中におさめて埋葬しました。
少なくとも妊産婦の死を通常とは異なった『異常なもの』として扱うという考え方は、すでに縄文社会にも存在したと考えられます。
これらからこの女性は、妊産婦であったから顔面に犬を乗せられて埋葬されるという特別な扱いを受けたことが分かりました。
イヌというのは、古来より出産や育児と大変に関係が深い動物でした。
前浜貝塚の場合、イヌが妊産婦をさまざまな形で保護したり、あるいは迷って出てこないように番犬として、あるいは彼女が迷わず『あの世』に行く事ができるように道案内の役割を期待したのかもしれません。
イヌは、呪術的な意味で合葬のために意図的に殺したと考えられます。
彼女が埋葬されるときには、赤色顔料(赤い色の粉)が遺体に振りかけられました。
彼女の左の鎖骨やその周辺の椎骨に赤い朱が発見されました。赤い朱は、縄文人にとって神聖なものだったと思われます。

 


岩手県大船渡市の宮野貝塚から30代後半(壮年期後半)の女性が発掘されました。縄文時代の中期で、彼女の名前はF地区出土人骨です。
彼女はイノシシの犬歯や切歯、動物の骨などからできた、大変立派な首飾りをしていたのです。
今から5000年前くらいに埋葬されたもので、彼女は頭を北に向け、左手を下に、右手を上にして胸の前で手を交差させていました。
両足をそろえて股関節で緩く、膝関節のところで強く曲げていました。
いわゆる仰臥屈葬で、股関節を緩く曲げるという姿勢は東北地方において多くみられるものです。
この女性の首の部分からは骨病変が見つかりました。
この頸部にみつかった関節異常は骨肉腫と思われます。
骨肉腫は骨にできる癌です。
骨肉腫は肺をはじめ身体各部位に転移することも多いので、いつもズキズキする痛みが走っていたと思われます。
この骨病変と装身具の着装には関係があったと考えられます。
イノシシの歯牙を用いた着装例は、縄文時代には彼女以外は例がありませんでした。
彼女の首飾りは病気に対する呪術的な医療行為と考えられます。
手術や薬品のない縄文時代には、このような呪術で痛みを和らげたのでしょう。
この例のように、縄文時代から癌が人々の病として存在していた事にも驚きます。

 

 

青森市の小牧野遺跡にストーンサークル(環状列石)があります。縄文時代の遺跡にはセックスを象徴しているものが沢山ありますが、ストーンサークルは、まさに男性器と女性器が結合している、すなわち生産を表していると考えられます。
ストーンサークルの周辺の土は非常に固くなっており、何度も何度も踏みしめられており、おそらく縄文人たちは魂を迎えたり送ったりする時に、ストーンサークルの広場でかがり火を焚き、踊りを踊ったのでしょう。
そして酒宴をひらき酔い、歌ったと思います。

 

青森県三内丸山遺跡から、縄文時代に酒を作っていた証拠が発見されています。
ニワトコというスイカズラ科ニワトコ属の落葉低木に実がなります。
このニワトコとショウジョウバエの集積された跡が見つかりました。
三内丸山遺跡では、ニワトコの種子と、ニワトコの果実が発酵していたことを示す昆虫化石が同時に発見されたことによって、当時の縄文人たちが野生の果実を集めて酒作りに励んでいたことが確かになってきました。

山形県鶴岡市に羽黒山があり、湯殿山の御神体は湯の出ている岩です。
この近くに玉川縄文遺跡があります。縄文の村と温泉は関係がありそうです。
北海道白老町に国立博物館『ウポポイ』が建設され2020年に開館しますが、白老町のポロト湖畔のアイヌ集落ポロトコタンは有名です。
このポロト湖畔に『ポロト温泉』があり、モール泉の名湯として親しまれています。
青森県の三内丸山遺跡の近く青森市三内字沢部に『温泉三内ヘルスセンター』があります。46℃の含硫黄-ナトリウム温泉が湧いております。
このように縄文人の男女が温泉に入り、お酒を飲み歌っていたと想像すると愉快になります。
稲作労働に比べて狩猟採集の労働時間は短かったとの調査もあり、縄文の人々は暮らしを楽しんでいたと思われます。

 

北海道の洞爺湖町縄文遺跡群、伊達市北黄金貝塚集落遺跡、函館市白尻町縄文遺跡、青森市三内丸山遺跡、青森県是川縄文遺跡などを見学しましたが、縄文土器や土偶や生活道具など、ほとんど共通していて、東北と北海道の広域は同じ縄文文化圏といえます。

北海道・北東北の縄文遺跡群【北海道】函館市、千歳市、伊達市、洞爺湖町、森町、【青森県】青森市、弘前市、八戸市、つがる市、外ヶ浜町、七戸町、【岩手県】一戸町、【秋田県】鹿角市、北秋田市は世界遺産候補として2021年に登録が決まります。


土器や土偶などが共通しておりますが、縄文人の言語も東北と北海道は共通していると考えられます。関西や九州なども、方言としてやや変化はあっても共通していたのではないでしょうか。

岩手県の龍泉洞は『湧窟(わくくつ)』といわれた泉です。
ワクというのは、アイヌ語の『ワッカ』、すなわち水です。
『クツ』は同じくアイヌ語の「クッ」、すなわち入口です。

 

アイヌ語の『ツンブ』は客人を泊めるための竪穴の部屋を言います。
『源氏物語』の中に出てくる「桐壺」とか「藤壺」の『壺』の意味もまた、貴人のための奥座敷という意味なのです。
『壺(つぼ)』の語源はアイヌ語の『ツンブ』と考えられます。

アイヌ語の『カラ』は火打石で火をつけることを意味し、『カロプ』は火打石を意味します。
日本語の『カガヤク』『カガリビ』などの『カ』は、火の意味を持ちます。

青森市に『ねぶた』祭があります。
その語源は、アイヌ語の『ネプタ』から由来すると思われます。
アイヌ語の『ネプタ』の意味は『それはなんじゃ?』です。
なにか予想外のものを見た驚きの言葉です。
青森県弘前市では『ネプタ』祭といいます。

アイヌ語においてもっとも大切な霊をあらわす六つの言葉が、古代日本語と関係があります。『カムイ』、『ピト』、『イノッ』、『ラマト』、『タマ』、『クル』、これらの霊をあらわす言葉は、日本語のそれとまったく同じものもあるし、日本語のその言葉がアイヌ語によってはじめて理解できるものもあります。

また日本全国にアイヌ語の地名が残っております。
九州の『阿蘇』は、アイヌ語の『アソ』意味は「火を吐く山」から残ったと考えられます。

縄文時代は紀元前1万3000年から始まり、紀元前1000年までの約1万2000年の期間です。この縄文の歴史は、九州から北海道までの縄文人の営みです。
この期間、日本列島は縄文語が共通言語で、東北~北海道も交易や移住があり、文化も共通しておりました。
紀元前10世紀頃に朝鮮半島から九州に弥生人が渡来し、稲作を広め日本列島に急速に弥生人の人口が増加しました。
そして朝鮮~中国の言語が九州に流入し、弥生時代~古墳時代と西日本の縄文語が侵食され、東北~北海道に縄文語が残ったと考えられます。
さらに平安時代~江戸時代に東北の縄文語は衰退し、北海道にのみアイヌ語として縄文語が引き継がれて残ったと考えられます。
縄文の文化や言語はまだまだ謎が多く、これからの調査・研究が期待されます。

 

 

 

 

 

【北海道在住 峯岸清行】