妻は珍しく悲観的なベトナム人である。いろいろ考えすぎるらしい。しかし、私に言わせればほとんど考えても意味のないことを考えている。

 

 ベトナム生活で一番大切なのは考えすぎないということだ。思考を停止させる。明日のことは、明日になるまで考えないほうがいいくらいだ。今これを書いているのは6月2日で、明日はハイフォンへ旅行に行くのだが、その旅程はいくら催促しても送られてこない。これがベトナムである。直前までずっと悩んでいるのか、ほったらかしにしているのか、何も決まらないのである。彼らの性格は意外とグズグズである。

 

 日本の青少年が「老後をどうしよう」などと考えているのは狂気の沙汰だろう。老後に備えて貯金?もっともらしいが、円の価値が今のようではないかもしれないし、自分がアクシデントで死ぬかもしれない。考えても仕方がないことを考えるというのはそういう意味で、そんな若者ばかりの日本の将来には正直言って期待できない。石原慎太郎が暴走老人と言われて、「若い奴は腰抜けじゃないか」と言ってたが、実際その通りである。

 

 彼らは楽観的だと言われている。それでも自殺は増えていて、一年前にVTVは年で40000人近くが死亡していると報じ衝撃が走った。うつが原因だという。データの出どころはよく分からないが、そういう報道があったのはたしかである。

 

 

 経済が発展するということは、不幸な人間が増えるということである。それは夏目漱石などが一貫して追究してきたことでもある。経済が発展し、個々人の富が増す。互いが依存しあう必要がなくなる。自らの〈幸福〉を追求できる。しかしそれはニセの幸福であって、自分の子供が笑顔で走り回って可愛いとか、そういうことを知らずに死ぬのである。かつては相互扶助で生きていたのに、そんな必要はない。究極的には肉親の存在も軽くなる。ベトナムも日本の後追いをしているのだ。

 

 自分のためにしか生きない個人の幸福の追求は、マスターベーションの一種であり、AVが盛んに見られるようになったのもこれと関係している。ベトナムでもトクダ、トクダと何度も言われるので、同じ共産主義者の徳田球一(1894~1953)のことかと思ったが(そんなわけないが)、なんと世界最高齢AV男優の徳田重男(1934~)だという。

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 それは彼らが単に性に対しておおらかになってきているというよりは、性の個別化が進行し、マスターベーションで完結し、女性と付き合わなくてもいいという価値観が増えてきているということかもしれない。男性の草食化も進行している気配がある。

 

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