『日本人とベトナム人① 日本人歴史研究家のハノイ日記』(Kindle)


日曜日なのに朝から仕事。7時半に高校につき、8時スタートで、10時半終わり。学生のやる気はゼロに近い。元気もない。ベトナム人教師は「先生、先に帰ってください」という。僕はまだ教えたいからと。彼は珍しいほど熱心だ。座ってばかりいる教師とは違う。私に居られるとやりにくいかもしれないので、帰ることにする。ネイティブがいることのプレッシャーも理解している。



 学生のやる気のなさに、日本の魅力低下も関係しているのではないかと思わざるを得ない。最近、野口悠紀雄氏をはじめとして、「日本が後進国になるのではないか」と言われている。しかし、もうある段階においては、日本は後進国並みである。例えば、ベトナムで急速に広がっているのは、QRコードによる決済である。現金の持ち合わせがない場合は、市場のおばちゃんですらコードを見せてここに送金してくれという。スピーディーで簡単。このおばちゃんたちには二種類いる。市場に正規でカネで場所を借りている人と、借りないでその近辺で売っている人である。後者は地下経済の住人である。しかしながら驚くべきことに、両者ともにQR決済が使えるのである。おそらく、ベトナムの税務署は資産家には目を光らせているが、こんな少額のやりとりに目くじら立てることはないのであろう。だから、安心してQRを使っているとしか考えられない。




 ところが日本ではどうか。一向に〈脱現金化〉が進んでいない。あるハノイの居酒屋で、日本人客だけが現金で払うと聞いたことがある。そういえば、さっき買ったパン屋で会計していた日本人女性も、現金払いだった。日本国内について言えば、そうした傾向は関西地方に多く、現金でしかうけつけない店だらけだという。なぜか。歴史に詳しい人ならわかるだろうが、被差別部落の多さと、その闇的な経済活動と関連づけて考える人も多い。キャッシュレスは記録に残る。それをしないということは、税金対策としか考えられない。風俗、犯罪含めて、日本の地下経済の規模は相当なものだと思う。当然のことではあるが
この巨大な闇の存在は日本の経済発展の阻害要因となっている。門倉貴史はこう言う。




 「(中略)企業の生産活動が非効率になる恐れがある。地下にもぐって経済活動を行っている企業は、信用がないので金融機関からお金を借りて資金調達をすることが難しい。このため、地下企業は一度に巨額のお金が必要となる大規模な設備投資を手控え、労働集約型で生産性が低い生産活動を行う傾向が強くなる。
また、脱税などを行っている企業では、多くの時間やお金を費やして脱税がバレないようにさまざまな隠蔽工作を行うから、本来の生産活動がおろそかになり生産性が押し下げられる。したがって地下での生産活動の拡大は、一国全体の生産効率を悪化させることになる。」[i]




 生産性が低い、設備投資の遅れなどにはこうした要因が考えられる。日本人の多くに、ベトナムの地下経済を笑う資格は全くない。日本は未だに一九八七年の映画『マルサの女』の如く、紙の領収書が飛び交う世界なのか。こうして旧態依然のやり方を改めないところからも、日本は世界から取り残されつつある。足を引っ張っている人がたくさんいる。



 













[i] 『日本の「地下経済」最新白書 闇に蠢く26,5兆円の真実』SBクリエイティブ二〇一八