ある日、家で音楽を聴いていた私に向かって妹が放った一言「コンポ壊れたの?」
そう、それくらいこの作品はぶっ飛んでいるのである。
コンポが壊れてるんじゃない、この作品が壊れてるんだ!
私がこの作品と出会ったのは2006年位だったから発売から約15年後の事。
完全に後追いである。
当時すでに名盤としての地位を確立しており、名前だけは聞いたことがあった。
名だたるアーティスト達が影響を受けた作品として、このLovelessを上げていた。
My Bloody Valentine、ギター&ボーカルのケヴィン・シールズを中心とした4人組ロックバンド(通称マイブラ)…音を聴いたことがなかった私はバンド名から想像するにハードロックか、はたまたデスメタルか?と思いを巡らせていた。
そんなことから、確かタワレコかHMVのワゴンセールで偶然発見、欲しかった新譜のついでに買った記憶がある。
そんな軽い気持ちで聴いた初マイブラLovelessはハードロックでもデスメタルでもなかった、いや、それ以上に不快極まりないサウンドが全編に渡って繰り広げられるノイズ地獄。
おまけにドラムは軽いし、囁くように唄われるボーカルはノイズに埋もれて聴きずらいときてる。
普段、EXILEやジャニーズ辺りを聴いている彼女を助手席に乗せてドライブに行く際は絶対に聴いてはならない一枚と断言しよう。
彼女が熱を出してデートが台無しになること必至。
ちょっと言い過ぎたが、そのくらい凄まじいギターノイズなのだ。
さらに、そのギターノイズをグワングワンとアームで音程を上下させるもんだから車酔いも必至なサウンドを生み出しているのである。
そんなわけで私のマイブラ初体験はOASIS同様、最悪だった。
そしてOASIS同様、しばらくの間、部屋のオブジェと化したのであった。
しかしOASISの時とは原因が真逆で、OASISは普通過ぎでマイブラは異常過ぎた。
余談だが、実はOASISとマイブラはアラン・マッギーという人物が創設したクリエイションというインディーレーベルのレーベルメイト。マイブラは2年もの歳月を費やし約4500万もの大金を使いLovelessを作り、クリエイションを倒産寸前にまで追い込んだとか。
そんな状況下完成した、この作品を聴いたアラン・マッギーはどう思ったんだろう?
それにしても超王道なOASISと超変態なマイブラを見出だしたアラン・マッギー恐るべし(OASISもある意味、ど変態だが)。
部屋のオブジェと化したLovelessだったが
、貧乏性の私は「せっかく買ったのにもったいない」という気持ちからか、家であまり聴かないアルバムを車で聴く習慣がある。
家から車へ降格。
謂わば島流しならぬ車流し。
しかし車から家へ昇格する作品も数知れず。
気づけばLovelessもそんな一枚となっていったのであった。
所謂スルメだった。
不快だったサウンドも癖になり、いつしか、あのギターノイズに包まれる幸福すら
感じていた。
この包容力たるや母親の胎内にいる赤ちゃんのような。(私の持論なのだが、病院で聴くことのできる妊婦の胎内の音ってマイブラのノイズを連想させる。少なからず人間のDNAに刷り込まれた根元的な部分にギターの音は訴えかけるんじゃないかな?
と思ったりする)
そこに乗る、甘美とも言える囁きボーカルがまた絶妙なのである。
そう言えば邦題、愛なき世界だったな…
1曲目のダダダダッという軽いスネア連打の後から、いきなり爆発するかのようなインパクトのあるリフで曲を引っ張るOnly Shallowの格好よさ。
To Here Knows Whenの、これぞマイブラ印!な轟音ギターノイズ&ビリンダの甘いボーカル。ギターのアーミングとシンセのフレーズとが溶け合ってなんとも言えない気持ちよさ。
When You Sleepは作品中、最もポップなノリの良曲。そのサウンドや、ケヴィンとビリンダの男女ツインボーカルが初期SUPERCARを思わせる。確かSUPERCARの中村弘二がマイブラに影響を受けたって発言してたな。
映画ロストイントランスレーション(因みにエンディングで日本の伝説的バンドはっぴいえんどの曲、風をあつめて、が使用されている)でも使用されたSometimesは名曲。歪んだギターと微かに聴こえるアコギと、うっすらオルガンっぽい音で構成された作品中最も静かな曲なのだがケヴィン曰く「最もギターを重ねた曲」らしい。
映画でも良いシーンで使われているので是非、見てみてほしい。
夜のドライブで聴いたら異世界に誘われますよ。
サウンドが注目されがちだが、こういうグッドメロディも書くんだよな。
そしてラストはマイブラ流ダンスチューンとも言えるSoon。シーケンスフレーズがなんとも不思議な浮遊感を醸し出していて気持ちいい。
と、まあ、色々と書いてきたわけだが結局はLovelessを言葉で説明するのは難しいわけで、何処がどう素晴らしいのかもよくわからない。
ただ聴きたくなってしまうからしょうがない。
ギターが凄い、ベースが格好いい、ドラムが上手い、とかじゃなくて、「なんだかわからないけど好きなんだよな」ってのが最も健全な音楽の楽しみかたなんじゃないかな?と私は思う。
だって私の2013年の邦楽ベストソングは恋するフォーチュンクッキーだし。
そして2013年。
長年このマイブラのたった2枚のオリジナルアルバムを聴き続けてきた私を含めた世界中のオーディエンスに衝撃のニュースが飛び込んできた。
My Bloody Valentine 22年ぶりのニューアルバムm.b.vリリース!
ネットニュースの活字だけで鳥肌立った。
往年のバンドの再結成や活動再開は数あれど、ここまで興奮した事はないかも知れない。
世界中がマイブラの新しい音をまさか聴けるとは思ってもいなかったわけだから。
肝心の音のほうはと言うとマイブラ以上でも以下でもない、まさにマイブラのシグネイチャーサウンドが鳴らされていた。
ただ、Lovelessは画期的だったと思う。
そしていつしかスタンダードになった。
そして、そんなシューゲイザーというジャンルまで作っちゃったバンドだものと革命的な物を私は期待してしまった。
しかし22年という歳月はハードルを上げに上げてしまったのである。
多少の変化は見られるもののLovelessとさほど変わらないマイブラがそこにいた。
それも悪くないと思う。
衝撃的ではないにしろ奇跡のリリースによって誠実に「これぞマイブラ!」なサウンドを聴かせてくれて私自身は興奮したし楽しめた。
ありがとう!マイブラ!
ただ、m.b.vも彼女とのドライブの際にはお勧めできません。
