今日は、すこし昔のお話ですが、
歩ちゃんという生徒さんのお話をしたいと思います。

歩ちゃんが私の教室の「母と子の音楽サロン」に来られたのは二歳になったばかりの頃でした。
じっとお母さんの手を握りしめて全身で雰囲気を呼吸するように瞳をこらして座っていたのが印象的でした。

この「母と子の音楽サロン」(※現在の音符ビッツ教室ベビークラスにあたります)は、ピアノのお稽古の苗床とも言うべきもので、リトミックやわらべうたを通して音楽に親しみ、ご家庭でも音楽にあふれた環境づくりをしていただくよう、お母様方にご指導をしているクラスです。

歩ちゃんはまず一年間このクラスに通い、三歳になるお誕生日を待って、他のお友達と一緒にピアノのお稽古を始めました。
母と子の音楽サロンで基礎が出来ていますから、たいていの曲はピアノに向かえば気軽に弾けるので、楽しくてしかたなくて、どんどん一人で曲を覚えてしまいます。

ところが・・・歩ちゃんは普段はおとなしいのですが、気性の激しい一面もあって、一度こじれると大声で泣き出し、誰が何と言ってなだめてもどうにもならなくなってしまいます。
お母さんが「先生、どうも申し訳ございません」とおっしゃって、連れてお帰りになることもしばしば。

そんなときは私も心得たもので、
「お母さん、次のチャンスを待ちましょう!」と申し上げますと、
お母
さんも腹を据えられ、一度も休まずに通ってこられました。

そのお母さんの揺るぎない態度が、いつしか歩ちゃんの中に確固たるものを築いていったのでしょう。
一年も過ぎると、鋭い集中力が養われ、こちらをハッと驚かせるような進歩が見られるようになりました。
お家でのお稽古の時も、うまく弾けなかったら泣きながらでもやり通すという、たくましさと意欲が育ってきました。

私の教室ではピアノの個人レッスン以外に、ミニ・コンサートをしばしば開きますが、先輩やお友達の演奏を聴く体験も、意欲づくりに一役かっていると思います。

歩ちゃん自身も、コンサートでバッハのメヌエットやジーグ、ベートーヴェンのエリーゼのためにやモーツァルトのソナタなど・・・数々の名曲をコンサートで聴かせてくれました。
どの曲も、大変よく弾けていましたよ。
6歳でスズキ・メソードの幼児能力コンサートに出場し、まだ小さな手で堂々とモーツァルトのトルコ行進曲を披露した姿には、お母さんも感動ひとしおだったのではないでしょうか。

本人、お母さん、先生が一つになって目標に向かって励む瞬間は、普段では現れ出ない感性が引き出され、能力が一段と高められるのだと思います。

一人でも多くのお子さんが、音楽とともにすくすくと育ってくださることを願ってやみません。