ようやく眠気がおさまってきたので続けさせて頂きます。
ピンポーン。
我々は意を決して車を降り、一軒目の同級生の〇〇君の家の玄関先のチャイムを鳴らしたのでありました。
インターホンから「どちらさまですか?」という声が聞こえてまいりました。
我々は極度の緊張状態の中、必死に声を搾り出しました。
「〇〇君の小学校の時の同級生の大川原と田中ですけど、〇〇君いらっしゃいますか?」
「少々お待ちください。」
埼玉の小さな町に一時の静寂が流れました。
まさに今から数分もしないうちに、20年ぶりに再会する同級生が玄関を開け、家から外に出てくる、
そう思うと我々の背中には緊張のあまり冷や汗のようなものが伝いました。
その時間は実際にはものの1分もなかったのでしょうが、我々には2時間にも3時間にも感じられました。
そしてついに玄関の扉が開きかけました。
小学生の時はやんちゃで可愛らしかった〇〇君、今は一体どんな風貌になっているのだろうか、思ったより老けてしまっているのか、またはとてもいい男になっているのか、まさにその全貌が明らかに!
「あらー、2丁目の大川原くん、久しぶりー、お元気でしたー?」
中から出てきたのは同級生のお母様でらっしゃいました。
「〇〇はねー、昨日まで帰ってきてたんだけど昨日の夜帰っちゃったのよー。」
残念ながら〇〇君はご不在でありました。
しかし、我々もその家には小学生の頃何度も遊びに行かせて頂いていたために、なんとお母様が我々の事を覚えててくださったのであります。
「なつかしいわねー、大川原君のお母さんにもたまに会うわよー」
「ああ、そうなんですかー」
「今はどこに住んでるのー?」
「今はですねー」
我々とお母様との会話は弾みました。
予期していませんでしたが驚くほど弾んだのであります。
我々はこのお母様と同級生だったのではないかと錯覚してしまうくらい弾んだのであります。
「いやー、残念ですねー、ではまた来年来ますねー」
我々は〇〇君には会えなかったものの、なにか次につながる手応えのようなものを掴み、その場を去りました。
「いやー、惜しかったね、じゃあ次は△△君の家に行ってみよう」
我々は期待感で胸をいっぱいにしながら次の目的地である△△君の家に向かいました。
△△君の家の玄関から出てきたのは△△さんのお母様でした。
「あー、覚えてるわよ、大川原君と田中君ねー、今△△は横浜に住んでるのよー」
「あーそうなんですかー、いやー懐かしいですねー、△△君なにしてるんですかー?」
「△△は今、会社勤めしててねー」
我々と△△君のお母様との会話は弾みました。
その日はとても気温が低く、かなり寒かったのですがそれすら気にならないくらい弾みました。
我々は次の家に向かいました。
次の家の玄関から出てきたのは同級生のお父様でありました。
初めてお会いさせて頂きました。
「息子は今、静岡に住んでおりまして。わざわざ訪ねてくださったのにすいませんねえ」
「いやーそうなんですか、この辺も変わりましたねー」
「そうなんですよ、あそこに大きなスーパーができましてね」
我々とお父様の会話は弾みに弾みました。
初対面とは思えない、まるで旧知の間柄のように弾みに弾みました。
そのまま一緒に駅前に飲みに行くのではないかと思うくらい弾みました。
次の家では同級生のお母様との会話が弾み、次の家では同級生のお父様との会話が弾みました。
そして10軒ほど回ったところで我々の頭の中に、ある疑問が浮かび上がってきました。
なぜ我々は新年早々、小学校の同級生のご父兄達とクロストークをして回らなければならないのか。
とても優しくして頂き、すごく楽しいのではありますが、なにかこう目的が変わってきているのではないかと。
しかし、恐ろしいことに我々の目的は途中から本当にに変わっていってしまったのであります。
実際、最終的に20軒ほど回り、同級生にも3人ほどお会いしたのでありますが、
それほど当時仲良しだったわけではなかったのもあり、当の同級生との会話はいっさい盛り上がりませんでした。
それどころか、家から同級生本人が出てきてしまうと、ご父兄と盛り上がれないということで、私は心底がっかりし、舌打ちをしてしまうほどになりました。
なんという不思議な現象でありましょうか。
その後、ご父兄欲はおなかがいっぱいになったのでありますが同級生欲をもう少し満たしたいということになりまして、田中よしくんがとうとう電話で同級生を呼び始めました。
小学校時代には見たこともなかった携帯電話という文明の利器を使い始めたのです。
電話でつかまったのは2人でした。
彼らはよしくんとは中学で同級生だったのですが、私は中学から地元を離れたために彼らとは初対面でありました。
4人で喫茶店でお茶を飲みました。
初対面にも関わらず会話は弾みました。
私も彼らとは共通の小学校の友達がいるために会話は弾みました。
皆の現状についても話が至りました。
彼らは偶然にも二人とも、子持ちのバツイチでありました。
「そうだよな、俺達ももうそんな歳だよな」と、渋く考えに更けると同時に、私の頭の中に、ある疑問が浮かび上がってきました。
なぜ私は新年早々、初対面の子持ちでバツイチの32歳のおっさん二人とお茶をしなければならないのか。
流れとはいえ、実に不思議な状況でございました。
今思い返しても、なにかその日は一日通して不思議な日でありました。
よく知らん方とたくさんお話をさせて頂きました。
懐かしい再会を果たすつもりが、結果的に新しい出会いをたくさん生んだのであります。
私は人生とはなにが起こるかわからないのだなと最近感じずにはいられないのでありました。