いつまでも黙って不機嫌でいるわけにはいかないので、
子どもの話をして時間をやり過ごしていると、
主治医の先生が来られた。
私がお会いするのは入院した日以来だ。

別室で話をするとのことで、先生についていった。
ナースステーション横の小さな部屋に通される。
先生はパソコンの前に座り、
私達は先生を囲むように丸椅子に座った。
そして、脳の画像を見ながら、説明が始まった。

症状としては非常に軽く済み、日常生活は問題ない。
リハビリに通う必要も無い。
その代わり、しっかり動くこと。
二週間後に再診し、その様子を見て、
車の運転が可能か判断する。
おそらく今後は仕事復帰も可能である。
とにかく血圧管理はしっかりして、きちんと服薬する。

このような話を丁寧にしてくださった。
私達は、うんうん頷きながら話を聞いていた。

良かった。
入院するときは絶望的だったのに、
いずれ仕事もできるぐらい、軽く済んだんだ。

お礼を言って、部屋を出た。
母のベッドに戻り、改めて退院後の生活について確認した。
前向きな雰囲気になって、ほっとしていた。

しかし、翌日の退院手続きのことについての話になると、
おかしな雰囲気になってしまった。
やはり退院時に現金での支払いになるとのことだった。
母が「病院に手続きしてくれただろ?」と父に尋ねる。
父は「何が?」と聞き返す。
私も母の言いたいことが分からなかった。
母は眉間にしわを寄せて険しい顔つきになる。
「保険。手続きしてくれたんだろ?」
「こんな短期間なのに、できんわいな」
二人ともイライラしながら言い合い始めた。
私は黙って待っていた。
母が大きなため息をついて、二人も黙ってしまった。

「払えるん?」
私がそう聞くと、母は「大丈夫」と答えた。
そもそもいくらかかるかも知らないそうだ。
本当に払えるのだろうか。
二人の険悪な雰囲気に飲まれて、私も黙ってしまった。

そこに、先生が再びやってきた。
「すみません、言い忘れていたんだけど...」
どうも肥満傾向にあるらしい。
血液検査のいろいろな数値を教えてくれながら、
食事や飲酒に気を付けるように念を押された。
面白おかしく話をしてくださるので、
私達はけらけらと笑ってしまった。

「それじゃあ、僕は仕事に戻りますね。」
先生がそう言って戻られたときには、
さっきまでのいやな雰囲気は消えていた。
ありがたかった。

「もう帰ろう。いくらいるのか聞いとくわ。」
父がそう言って、帰り支度を始めた。
母は「ありがとうね」と笑って、見送ってくれた。
私は思い付く限りのフォローの言葉を母に伝えて、
部屋を出た。

ナースステーションに寄って、費用のことを尋ねる。
しばらく時間がかかるとのことで、
「あんたは先に帰ってなさい。」と父に言われた。
たしかに、下の子がお腹を空かせているかもしれない。
私は先に帰ることにした。

帰り道、ほっとしたけど二人の雰囲気に不安になった。
複雑な気持ちのまま、義実家に帰った。