母が倒れているのではないかと不安になり、
寝ている下の子を連れて実家に向かった。
会話できなかったのは電話の不調でありますように。
そう祈りながら運転した。

実家の駐車場に車を停めて、玄関の鍵を開けた。
そこには母がいた。
立っている。
倒れていなかった、良かった。

「何?もう、来んでも良かったのに」

母は疲れた顔で、はっきりとそう言った。
一瞬で最悪な気分になった。
ああ、来るんじゃなかったな。
きっと顔に出ていたと思う。
それでも、話しかけた。

「なんで電話で話さんかったの?心配した」
「携帯の調子悪いんよ。もう心配せんでいいのに」

来たことが迷惑とでも言わんばかりの苦々しい表情だった。
こちらは新生児を連れて30分かけて来たというのに。
私は何しに来たのだろう。
“母が倒れていなくて良かった”
なんて安堵の気持ちはもはや無かった。
嫌な気持ちがしんしんと降り積もっていた。
心の狭い自分の醜さを誤魔化すために、話し続けた。

「身体はどう?」
「悪いに決まっとるでしょう。昨日退院したばかりなのに。
    父は何もせんし」
「手伝ってくれんの?」
「そう。わけわからん!」

母は父への不満を爆発させた。
退院後、早々に父はお酒を飲み始め、酔っ払ったらしい。
今朝は仕事ぎりぎりまで眠り、犬の世話もせずに出社したので
仕方なく母が散歩に連れてだしたのだと。

家のものを勝手に動かしているのも腹が立っているそうだ。
特に洗濯物を干そうとしたら、洗濯物を干す突っ張り棒を勝手に捨ててしまっていたのでとても困ったと。

そもそも、昨日退院の時に着る服を持ってくるように頼んでいたのだが、その服を汚れたビニール袋に入れてもってきたことにも腹が立っているようで、母が言うには、そのビニール袋は玄関に置いていて中に長靴を入れていたのだが、その長靴も父がどこかにやってしまっているそうだ。

怒りがすごい。
怒りで興奮していることに加えてそもそも話すのが下手で主語が抜けていたり語順がめちゃめちゃだったりするので、状況を理解するのに苦労した。

退院してすぐに家事をしなくてはならないのは辛い。
私も産後退院したその日になぜか鯵をさばくことになり、
二時間近く台所仕事したのがとても辛く、
その間ゲームをしていた夫に腹が立ったのでよく分かる。
(私がゲームしてもいいよと言ったのだけど)

腹が立つのは分かるが、
済んだことを感情的に責め続けても仕方ない。
二人が協力していかなくてはいけないのは明白だ。
しかし、父と母は何年も一緒にいるのに
きちんと相談したり計画したりしてこなかった。
これからはそんなことではいけない。
どこに何があるか、
家事はどう分担するか、
お金の収支はどうなっているか。
家のことを逐一共有していくべきなのではないか。

課題を明確にして、してほしいことは具体的に指示する。
そうして問題を解決していかなくてはいけないのではないか。

「困ることは、はっきり言わんと伝わらんよ」

母にそう言った。
母の怒りはおさまらず、何を言っても
父の不満を繰り返し言うだけだった。

私はイライラしてくるのを押さえられなくなり、
どんどんと口調がきつくなってしまっていた。

「じゃあ母はどうしてほしいの?!」
「何もしていらん。あんたももう心配なんてせんでいい」

は?

私はもう我慢できずに、壁を思い切り叩いてしまった。