27年越しに完成した「箱男」が公開されたので、先日倉敷まで観に行ってきました。
「箱男」は安部公房が1973年に公開した長編小説で、現在のネット社会を予言するような内容です。
段ボール箱をすっぽりと頭から被り、都市を徘徊しながら一方的に世界を覗き見る❝箱男❞。完全な孤独と完全な匿名性を望んだ姿こそが❝箱男❞なのだそうです。
映像化にあたっては、1997年に映画の製作が決定したもののクランクイン直前に撮影が頓挫してしまった幻の企画が、27年の時を経て上映実現に漕ぎ着けました。
安部公房の作品の中でもまあまあ難解な内容なので、映像化は難しいのでは⁈と危ぶんでおりましたが、室生犀星の「蜜のあはれ」を見事に映画作品に創り上げた27年前と同じく石井岳龍監督がメガホンをとるというので期待も膨らんでいました。
観客は私を含めて8人。
1組だけご夫婦がおられましたがその他は単身鑑賞で、作品のマニアックっぷりを実感します。
序盤からダンボールの内側と外側、どっちが内側でどっちが外側なのか分からなくなります。
森博嗣の「笑わない数学者」的に、内と外を決めるのは自分なのだ……と、早くも脳内麻薬が過剰放出してクラクラ酩酊状態に(笑)
中盤は原作でも安部公房の述懐が行ったり来たりぐちゃぐちゃに迷いまくるので、映画のほうもやや中弛みするのは仕方ない。飽きさせないように?挟まれる箱男同士のバトルシーンが異様にレベルが高いです。
そして葉子役の白本彩奈さんの存在感が強烈で目を離せません!
ビジュアル的にも安部公房の世界観にピッタリで影の主役といえるでしょう
例えば安部公房の「燃えつきた地図」は探偵小説だけど、犯人探しや失踪者の目的や行方を現実的に謎解きをすることが無意味なように、氏の他の小説においても同様で、解を求めることや自分の糧となるような意味を見出すことは愚の骨頂です。
安部公房の苦悶そのものの思考の迷宮に迷い込んで一緒に哲学し(たような錯覚が麻薬のようで)、所々自分とシンクロする瞬間に快感に酔うのが最高の愉楽なのです。
でも映像化されると❝見る立場から見られる立場に逆転した時❞などを効果的に描けるところは面白いですね!
覗き見はしたいけど、覗き見されるのは恥ずかしい&不快だという心理描写とか、ラストのメッセージはダイレクトすぎるんだけど。
何にしてもわざわざ朝イチ上映に来館するほど、安部公房の世界に触れたい人たちとご一緒できたのは感動的でした