古い映画作品ですが、勅使河原宏監督の「利休」をご紹介します。
オープニング画面に❝イサム、蒼風に捧ぐ❞と表記されています。
蒼風は勅使河原監督のお父さんで草月流創始者の勅使河原蒼風、イサムは彫刻家・造園家としても世界的に有名なイサム・ノグチのことです。
蒼風は草月会館改修の際、イサムに玄関口の作庭を依頼したのだそうです。
ふたりの偉大な芸術家に捧げるに相応しく、全体の映像がとにかく幽寂閑雅で美しい!
さすが生け花が活かされた演出も多く、茶室に飾る一輪の真白な朝顔を摘み取ると、それ以外の朝顔も摘んでしまいなさいと弟子たちに指示します。
茶室に至るまでの朝顔を摘んでしまったことにより、茶室の朝顔の純白は目が眩むほどに光り輝いて活きるのです。
梅を生けるよう申し付けられた時にも、あのような斬新で風流な活け方があるのかと目を見張りました・・・。
今福将雄さん演じる樂家初代・長次郎が黒茶碗を焼成する場面も必見です。
窯出し直後の太陽を宿したような色から黒茶碗に変わっていく神秘性は見事すぎます。
焼成を手伝う職人さんの役は、実際に樂家の職人さんたちとのことで納得の美しい場面でした。
利休役は三國連太郎さん。
閑かな抑えた演技が奥深さを思わせる迫力がありました。
美を尊び、丁寧に生きている姿が、口調や立ち居振る舞いの端々から伝わってきました。
また、大きな算盤をバンバン弾いている商人としての場面も挿入されており、❝美❞や❝教養❞がとても力を持っていた時代だったことが伺えます。
秀吉役は山崎努さんと聞いた時にはあまりイメージと合わないなぁと思っていましたが、成り上がりの田舎者感や下品だけど憎めない雰囲気が素晴らしかったです。
利休との溝が深まっていくにつれ秀吉のメイクも表情も不気味になり、秀吉の心のうちの醜悪さが鮮烈に表現されているようでした。
家康役の中村吉右衛門さんや光成役の坂東八十助さん、ねね役に岸田今日子さん、茶々役には山口小夜子さん、大政所役の北林谷栄さん、利休の妻役は三田佳子さんと挙げればキリがないほど贅沢極まりないキャスト勢です。
カメオ出演も豪華絢爛で、国内外で著名な画家や学者、勅使河原監督本人、元首相の細川護熙さんも織田有楽役で出演しています。
陶器や屏風などの美術品も本物が多く使われており、美を追求し続けた利休だけあって、まさしく美の饗宴といえる作品でした。