伊藤智生監督のデビュー作「ゴンドラ」という映画をご紹介します。

もう36年ほど前の自主制作映画ですが、当時は公開する場所にも難航するほどだったそうです。
しかし海外での評価は高く、大林宣彦監督はじめ多くの映像監督や評論家からも絶賛されました。

主役の女児がとんでもない存在感のある子どもですが、この子はなんと劇団などの子役さんではなく、伊藤監督の近所に住む子どもなのだそうです。
主人公・かがりのキャラ設定とほぼほぼ同じ状況の子どもだとのこと。

伊藤監督はこの子の物語を撮りたくて、5000万円の借金をしてまでこの作品を創ったというのですから、それだけ創りたい情熱を持った伊藤監督に嫉妬に狂いそうなほど感動します。

監督の伊藤智生さんという方は、実は❝TOHJIRO❞という名で現在も活躍する鬼畜系のAV監督(鬼畜系は大キライ!)なので、その偏見からも何度も❝こんなものは駄作だ!❞と思い込もうとしたのですが、作品の持つ凄まじいパワーには負けました。

素晴らしい作品だと認めたくないのですが、衝撃的な美しさに震え心に刻み込まれる作品です。

都会の中の孤独、浮遊する心。

作品の中に廃墟と水がたびたび出てきますが、タルコフスキーっぽい幻想美のある絵作りだなぁと感じました。

少女・かがりと青年・良とが出会い、自分の居場所を求めて回復し再生していく物語です。

ヌードシーンは何回かありますが(少女と木内みどりさんと佐々木すみ江さん)、かがりと良にエロス要素は一切ありません。
その場面で❝剥き出し❞や❝素のまま❞という表現が必要な自然な裸であったこともお見事としか言いようがありません。

序盤で高層ビルの窓掃除のための❝ゴンドラ❞に乗っている良は、誰からも存在すら認めてもらえず無視され続け、都会の風景の中にも故郷の海の幻を見てしまうほどに孤独でした。

ラストシーンで良の乗る❝ゴンドラ❞は、父親のボロボロに壊れた船を修理して息を吹き返したゴンドラ。かがりと共に泣きたくなるほど美しい夕陽の海に漕ぎ出でてあたたかに溶けているのです。

心を打つ場面を挙げるとキリがないくらい至るところ丁寧に作りこまれており、伊藤監督がどんなにこの作品に魂を注ぎ愛し抜いたかが伝わる作品でした。