年末年始というのは、懐かしい顔に会える時期でもある。
地元から離れたことがない僕は、
オートバイで通りに出れば、同級生の自宅前を通過することも少なくない。
大晦日である今日、午後からほんの数時間だけ自由な時間ができた。
この時間ならいつものコースだな。
そう思いながらスポーツスターに股がった。
同級生の自宅前にある信号で停止していると、
雑巾片手の同級生が目に入った。
思わずシールドを上げて、彼の名前を叫んでいた。
「おおぉっ、久しぶり。ちょっと寄っていきなよ。」と彼が手招きしている。
僕は慌ててオートバイのエンジンを切り、
重たいスポーツスターを押して彼のガレージに停めた。
どうやら彼は僕のスポーツスターをはじめて見るようだった。
ということは、10年以上会っていなかったことになる。
彼が磨いていたのは、DUCATI999S。
彼は20代の頃にオートバイで大けがをした。
そのけが以来、彼はオートバイに乗ることを諦めていた。
ところが、10年ぶりに会った彼はDUCATI999Sを所有していた!
僕はなぜか嬉しい気分になった。
同級生の中で僕がクルマ、オートバイの扱いで完敗を認めるのは、彼だけだ。
彼だけには決して敵わない。いつもそう思っていた。
もちろん今もそう思っている。
その彼がDUCATI999Sでオートバイライフに復活していたなんて。
僕らは一緒に走りに行くことや飲みに行く約束を交わした。
そして、僕は一人でいつもの海岸に向かって走り出した。
晴天であっても空気はとことん冷たい。
冷気が容赦なく下半身を冷やす。
あの海岸の日だまりが待ち遠しい。
この海岸に佇む時間は数十分。
決して長い時間ではないけれど、何度でも訪れたくなる海岸。
僕が一番好きな海岸。
この海岸で答えのない事柄をボンヤリ考えるのが好きだ。
夕陽を観ながら泣くこともある。
人に涙を見せることはできない。
だから、僕が泣けるのはこの海岸だけだ。
2008年の最後に訪れる場所として相応しい場所。
それが、この海岸。