本日、初乗り。

仕事が本格的に始まる前に是非やっておきたいこと、
それは全てのマシンに火を入れること。

まずは、エルシノア

チョークレバーを押し下げて、軽くキックを蹴り下ろす。
2、3度キックするだけですぐにエンジンはかかり、
マフラーから白煙を吹き出した。
僕はキックスターターのオートバイが大好きだ。
バッテリー上がりを心配する必要がないから、
出先でのトラブルリスクも回避できる。
バッテリーが上がってセルモーターが回らず、
エンジンスタートできないなんて、悲し過ぎる。
だって、オートバイなんだから。

股間の下からのキャブレターの吸気音の方が
マフラーからの排気音よりも大きい。
振動がビリビリとヒップを震わせる。
実速よりも遥かに音だけが先走っている。
これが、旧い2サイクル車の魅力でもある。

海岸線をどんどん南下していく。
暖かい季節には、たくさんのライダーで賑わっている
パーキングも、今日は1台のオートバイも居なかった。
それはそうだ、完全防備で挑んだ僕の膝や足首だって、
冷たく凍り付きそうなほど寒さで震えている。
震える手でタバコを1本だけ吸って、Uターン。

次はスポーツスター

冬の間はこちらの方が心配だ。
キックでエンジンスタートできないから。

チョークレバーを引き、スターターボタンを押す。
キュルキュルと少し頼りない音でセルモーターが回る。
5秒ほどスターターを押し続けたけれど、エンジンかからず。
もう一度スターターボタンを押す。
今度はすぐにエンジンスタート。

エルシノアからスポーツスターに乗り換える度に、
ギャップにびっくりする。
オートバイの重量とポジションはこうも操作に違いを齎すのかと。

とにかく全てが重量感に溢れて、
乗る方もパワーを求められている気がしてしまう。

エルシノアで向かった方向とは逆の方向に走り出す。
体は完全に冷えきっている。
日暮れも迫っている。
近所の海辺にオートバイを停める。

恋人達が砂浜の上を歩いている。

僕は風に吹かれながら立ち尽くし、
ここでも震える手でタバコを1本だけ吸った。
海を、恋人達を眺めながら。


ついこのあいだ、もう夏はウンザリだと
思ったばかりのはずなのに、早くも灼熱の太陽が恋しくなっている。
ギラギラした太陽の下を走りたくなっている。