眠りたいだけ眠り、午後になってベッドから這い出る。カーテンから差し込む日差しを見て、天気予報に裏切られた気分になる。


 ピー、ヒョルルー、ルルー、ピーと鳶の泣き声が空から聞こえてくる。コーヒーを飲みながら目を閉じる。天候よし、眠気よし、コーヒーよし、今日の予定はなし。完璧な日曜日の午後のはずだ。それでも、僕はまるで満足しない。何かが足りない。深い心の闇なのか、血のせいなのか、じっとしていることができない。かといって、することもない僕には人に会う勇気もない。


 クローゼットから10年選手のバンソンBタイプを取り出し、袖を通してみる。腕を曲げるだけでレザーの軋む音がする。10年経ってもハードレザーのままだ。ふと鏡に映った自分を見て思いとどまった。ちょい乗りにはちょいハード過ぎる。バンソンは「一日中バイク」のときに着ることにし、スタジアムジャンパーを羽織って家を出た。

 

 ボディーカバーを外すとWAXの匂いが僅かに鼻腔に届いた。スターターを押し、簡単にエンジンスタート。ゆっくりと走り出す。久しぶりに乗るスポーツスターは重く感じる。コーナリングも重量の塊のよう。慎重に身体の記憶を呼び戻していく。熱に炙られて一段とWAXの匂いが強くなる。この匂いは好きだ。


 ゆっくりと、シフトチェンジによる加速を楽しみつつ走る。


 人通りの少ない街でカラスが軽トラックの荷台に舞い降りた。何かを物色している。今この瞬間、カラスはよく似合う。



 観音崎に到着すると、何台かのオートバイが停められていた。ハーレーに乗り込もうとしているカップルを見て、タンデムで紅葉を見に行くことを思いつく。


 タンデム紅葉ツアーの計画を練りながら僕は帰路についた。


 それでもまだ、心は曇ったままだ。