止んだはずの雨がまた降り始めた。窓ガラスにミストがへばりついている。雲は急ぎ足で空を駆けずり回っている。こんな日は部屋でのんびりするのも悪くないかと諦めかけていた午後、青空がのぞき始めた。

 午後のこんな時間に突然雨に上がられても、こちとらノー・プランでんがな。

 日頃からアレやりたい、コレやりたいと思いつつ、一向に出来ていない事柄をだれきった脳みそから一つ一つ呼び起こしてみる。

 そうだ、鎌倉へ行こう。

 近距離に住んでいながら、なかなか足が向かないのは渋滞のせい。

 でも、今の季節なら大丈夫かも。夏は過ぎ去り、紅葉にはまだ早い。海に出れば夏の残像を見ることも出来るかもしれない。寺巡りなんていうのもよいかもしれないなぁと思いながら、エルシノアを走らせる。

 滑川のパーキングにエルシノアを滑り込ませると、強風が肌を叩き、あっという間に潮がメガネを曇らせる。ヘルメットをとると、潮風が頭を洗う。ムッシュムレムレだった頭には気持ちよい風だ。

 台風13号の影響でいい波がたっているのかどうかは、わからないけどサーファーの数が多かったような気がする。そして夏の残像を発見。

 海の家の残骸。

 壊され運び出される前の木材や冷蔵装置、プラスチックの管などが砂浜に散らばっていた。毎年作っては壊し、作っては壊しを繰り返している。たった2ヶ月だけの海の家。



 潮風にあたっていたら、突然「しらす」が食べたくなった。なぜかは不明だけれど、かすかに潮つながりか。

 ホントは鎌倉の寺や街を散策するつもりだったが、走り足りないことだし、ちょっくら江ノ島まで足を延ばしてみることにする。エルシノアで江ノ島へ行くのははじめてだし。

 もともと、江ノ島へは滅多に行かない。134号線を走るときは、いつも葉山方面に向かってしまうから。
江ノ島方面へ向かってもせいぜい稲村ヶ崎辺りで飽きてしまい、Uターンしている。でも、今日は「しらす」という目的が突如出来たので、江ノ島まで走りきることにした。

 江ノ島はこんな天気にも関わらず、老若男女で賑わっていた。僕は迷わず「しらす問屋 とびっちゃ   に飛び込み、「釜あげしらす 小」を手にとった。500円也。これで今夜のおかずが一品できた。大根おろしと醤油、もしくはポン酢だけあれば充分だ。

 エルシノアの荷台にしらすをくくりつけて、早々と江ノ島をあとにする。今度こそ、いざ鎌倉。とは言っても、夕暮れはすぐそこまで迫っている。まぁ、いいとこ小町通りを散策するくらいの時間しかありませんが。

 UNION前にエルシノアを停めて、小町通りに入る。小町通りも賑わっている。気になるお店があれば足をとめてのぞいて見る。そんなふうにして小町通りを楽しんでみる。前回来たのは何年前だろうかと考えてみる。思い出せない。それでも「くるみ」は憶えていた。前回は二人であんみつを食べたはずだ。今日は一人だけれど入ってみる。そして、あんみつを食べた。しらすを美味しく頂くためには、ここは我慢のしどころだったが、我慢できずに食べてしまった。合掌。




 家に向かって走っていると、夕焼けが見えた。それは、夕陽とは呼べない夕焼けだった。そして僕は家に向かっている。夕焼けの中を家に向かうのは子供の頃と同じだなと苦笑いした。