呪怨白い老女

※ネタバレです。

製作年　2009年

製作国　日本

上映時間　60分

監督･脚本　三宅隆太

原案･監修　清水崇

製作　福原英行、原知行

エグゼクティブプロデューサー　加藤和夫

プロデューサー　一瀬隆重

撮影　金谷宏二

編集　深沢佳文

音楽　ゲイリー芦屋

美術　井上心平

出演　南明奈、鈴木裕樹、みひろ、中村愛美、福永マリカ、雨宮チエ、星野晶子、鈴木卓爾、ムロツヨシ、宮川一朗太　他

あらすじ

とある家で起きた一家惨殺事件。犯人はその一家の息子であり、犯行後に自殺。遺体と共に遺されていたテープには不気味な声が録音されていた。数年後、高校生のあかねの前に、幼い頃の親友･未来が当時の姿のまま現れる。そして未来はかつて起こった惨殺事件の被害者だった...

以前も書いたかもしれませんが、僕はいわゆる、「Jホラー」というジャンルがとても苦手なんです。なぜかというと、

怖いから。(身も蓋もない理由)

幼少期に「リング」をテレビで観て号泣&トラウマになってしまい、以来「このての映画(心霊映画)は２度と観ない。」と固い決意。

でも僕だってもういい大人ですよ(苦笑)

去年「犬鳴村」を鑑賞したら、怖がりながらもけっこう楽しめたし、その勢いでそれこそ20年ぶりぐらいに「リング」を観返したら、思いのほかお話自体のおもしろさに引き込まれてしまいまして。改めて「Jホラー」に興味が出てきました。

そうなってくると個人的に気になるのは三宅隆太監督ですよ。日本でも有数のホラー映画作家であり、日本に数人しかいないと言われるスクリプトドクター(脚本のお医者さん)。

TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」や「アフター6ジャンクション」での穏やかで軽妙な語り口と、「映画」と「人」に対する優しい目線と哲学。それは僕にとって非常にフレッシュかつ共感できるものであり、「映画の見方」を超えて、人生を生きる上での指針となるような考え方を授けて下さった恩人(だと勝手に思っている)なのです。

そんな尊敬する三宅監督の作品を観ないわけにはいかないとは思いつつも、例によって「Jホラー」が苦手なため、今まで避けてきました。

それでもようやく「Jホラー」に対する免疫が少しついてきたのでね。妻と一緒に(一人ではまだ怖くて観れない)同監督作の「七つまでは神のうち」

と、脚本のみ担当された「クロユリ団地」それから清水崇監督の「呪怨ビデオオリジナル版」と「劇場版呪怨」を鑑賞してから本作を観てみましたよ。

イヤ～！！！！！！！！(泣)

あー怖かった。

ジャンル映画なのでね。正直これで感想を終えてもいいような気がしますが(笑)

とにかくもうスゲー嫌な感じというか、三宅監督を始め、ホラー作家の方々って当たり前ですけど人を怖がらせることに長けているわけで。

そんな「人を怖がらせるプロ」の手にかかれば、僕のような「心霊ホラー弱者」など赤子の手をひねるぐらい簡単にグロッキーにされてしまいます。

でも僕も怖がりながらも、「Jホラー」映画における「観客を怖がらせる技術」には感心しきりで。

まず緩急の付け方がうまいというか。

例えば冒頭、恐らく、というか絶対に入ってはいけない雰囲気の家にクリスマスケーキを配達にきた青年がやってくるわけです。青年が玄関に入り、「すみませ～ん。」と声をかけても返事はない。

「のっけから嫌な感じだな～...」なんて怯えていると、「はーい！ちょっと待ってー！」という住人の返事が。

とりあえず僕はここで、「あ、まだ大丈夫か。」なんて油断するわけですけど、すでに三宅監督の術中にはまっていたわけです。

安心したのもつかの間、「はーい！ちょっと待ってー！」という住人の台詞が何度も繰り返されるという異常事態。

「え、やっぱこの家ちょっと変じゃない？ていうか...」

全然大丈夫じゃね～！！(泣)

「繰り返される」ということがこんなにも怖いとは...

ケーキ屋の青年。散々な目にあってました...

緩急の付け方は撮影･編集においても効果を発揮しています。

例えば高校のトイレのシーン。登場人物が鏡を見ていると、後ろにいるはずのない小学生の影が。個室に入った小学生。恐る恐るドアを開けると誰もいない。

この時点で僕は「どうせ誰もいないと見せかけてガバッとくるんだろ？」と身構えているわけですが、それまで登場人物に寄っていたカットだったのが、ここで一瞬トイレ内の全体が映る位置からのカットに切り替わります。

「誰かいるに違いない。」と思っていた僕は、カメラが俯瞰的にトイレの全体を捉えたことで、「あ、本当に誰もいないのか。」と安心します。

はい。またも三宅監督の手のひらの上(笑)

安心したとたん、ドアの影から白い老女登場ですよ。(ふざけんなよ！怖いよ！)

出た～！！！！！！！！(ホントはこういう画像貼るのも嫌なぐらい苦手。)

それから畳み掛けるようなテンポの早いショック演出がすごく怖くて。

例えば、「バッグを開けたら生首が入っている」この画になった時点でもう怖いわけです。その後に観客が思うのは「お願いだから目だけは開けないで...」ということだと思います。

本作では、観客が「バッグの中の生首」に驚いて、「あっ！！」となっている間に食い気味で生首の目が開くので、こちらに覚悟をする時間を与えてくれません。ボクシングで言うところの「ワン･ツー」みたいな感じでしょうか。

その「ワン･ツー」攻撃は他にも。

あかねが友人と3人でこっくりさんをするシーン。ここではコインに指を乗せる3人の手元がアップになるとなぜか指が4本あると。この時点で観客は「えっ？」となるわけですが、間髪入れずに引きのショットになると未来ちゃんの幽霊登場(もういや...)。

怖がりであるが故に避けてきた「Jホラー」ですけど、技術論的な側面から鑑賞すると非常に勉強になるというか。「観客を怖がらせる技術」というのは、裏を返せば「観客を楽しませる技術」に他ならないわけですもんね。

巧みな技術に翻弄&感心させられっぱなしでしたけど、それ以上に本作の「止まってしまった心の時間が動き出す物語」にも感動して。

主人公のあかねは、幼少期の親友･未来を救えなかった罪悪感に苛まれながら生きてきたわけです。

クライマックスであかねは目の前に現れた未来の幽霊に「ごめんなさい...ごめんなさい...」と繰り返し、気がつくと未来は消え、床にはかつて未来が大切にしていたクマのキーホルダーが。

これはついに自分の罪に向き合ったあかねに、未来が文字通り、叶わなかった「未来」を託した瞬間で。なるほど「未来」という名前そのものが伏線になっていたのかと唸らされたし、なんだか切ない気持ちにもなっちゃって...

基本的に時世が「過去」の出来事がシャッフルされているストーリー構成の本作。このクライマックスで初めて時間が「前に進む」し、主人公あかねの心も「前に進む」というとてもキレイな終わり方だったんじゃないかと。

でも、ある意味「死」というものがホラー映画におけるクライマックスの定型としてあるなら、罪の意識を抱えたまま生きていかねばならないという本作のラストは、逆に残酷な着地でもあるんですよね...

あと、心霊映画でありながら、スラッシャー映画のような暴力描写があったのもビックリしたけど楽しかったなぁ。

ただ、

ちょっとだけ不満も書いておきますね。

確かに本作は「呪怨」シリーズであることはわかりつつも、やっぱり「俊雄くん」は出さなきゃダメなんですかね？

もちろんファンサービスとして出さなきゃいけないという事情はあると思いますが、本作には別に俊雄くんは関係ないというか、必要なかったと思います。

俊雄くん、今回はいらなかったかも。ゴメンネ...

それから白い老女も、やっぱり出オチキャラではあるので、何度も「ジャーン！」と出てこられるとさすがに慣れるというか。小道具のバスケットボール含めてちょっと笑っちゃいました。

ん～まあとにかくすごく怖かったし、すごく楽しかったですよ。

書き忘れてましたけど、こっくりさんのシーンで、あかねにすごく無神経なことを言う友達とか、僕は「こいつは絶対悲惨な死を迎えるな。」とほくそ笑んでいたら、まさかのあかねを気遣ってくれた友達の方が幽霊に襲われるという不条理な展開も、実際に現実にある理不尽な恐怖感があってよかったです。

去年からようやく「Jホラー」をちゃんと観るようになって思ったのは、「怖がり」であることは、ホラー映画を楽しむ上では完全にプラスに働くということ。そりゃそうですよね。怖いから楽しいわけですもん。

もしこのブログを読んでいる方の中に、僕と同じように心霊ホラー作品に対して「怖いから苦手」という気持ちを持っている方がいるなら、

そんなあなたにこそオススメ！

と言いたい「Jホラー」そして「呪怨白い老女」でございました～。

個人的評価

7/10

かなり好きだった三宅監督作。

ではまた。

呪怨 白い老女

呪怨白い老女