●アメリカ民主主義の核心的規範の一つは、嘘をつかないである。嘘で塗り固めたトランプの共和党大統領候補指名受諾演説と共和党大会を批判する

 

 (1)トランプは共和党を完全に「トランプ党化」してしまいました。トランプの熱狂的な支持者たちは、彼の言葉を無条件に信じます。7月13日に発生したトランプ暗殺未遂テロは、トランプ信仰者が「あの日隣にいた神がトランプ氏の顔を右に向けたのだろう」と語ったように、それをさらに深め、強化するものになりました。トランプ信者はトランプと彼を称賛する右翼メディアのコメンテーター等の言葉だけを聞き、トランプに批判的な言説は初めから排斥してしまいます。中立的な立場の学者の主張であってもです。トランプと自分は一体であり、したがってトランプ批判は自分への批判なのです。だから、感情的に激しく反発して排撃します。これらの人々には、批判はどれだけ建設的なものであっても通用しません。彼らを取り巻く状況が大々的に変わらない限りは。

 

 (2)トランプとその陣営は7月15日から始まる共和党大会を、暗殺未遂テロを最大限利用して「団結した共和党」を誇示する大会にしました。共和党にはトランプに一定の批判を持つ穏健派もいます。また、「トランプを絶対に大統領にしてはならない、アメリカと世界秩序が破壊されてしまう」と考える人々もいて、この人々も共和党穏健派の元国連大使のニッキー・ヘイリー氏を支持して予備選挙を闘いました。ヘイリー氏は予備選は3月に撤退しましたが、トランプ支持は表明しませんでした。彼女は5月22日に本選挙ではトランプ氏を支持すると表明したのですが、トランプの怒りを買って党大会に招待されていなかったのです。しかし、トランプは暗殺未遂テロを利用して戦術を変えてヘイリー氏を大会に招待し、彼女も同意して党内穏健派を意識して、「本選挙で投票する時、トランプ氏と100%意見が一致している必要はない。違いは脇に置き、国を強く結束させるために必要なことに焦点を当てよう」と党大会で発言したのでした。彼女は私益からそうしたわけですが、トランプに完全に利用されたのです。トランプはこれで、本選挙において党内の穏健派の支持も得ることになりました。当然ですが、マルコ・ルビオ、テッド・クルーズ両大物上院議員らは、トランプ支持演説をしました。

 

 彼らはまた彼女も、トランプがアメリカの法の支配と民主主義を破壊して独裁主義を実行していく人物であることや、アメリカの同盟関係を破壊して世界平和秩序を、中露北の独裁者と共に壊していく人物であることを認識しようとはしないのです。いくらかは不安に思っても、トランプと対立しては自分の将来の成功はないと考えて、国益ではなく私益を優先していったということになります。

 

 (3)トランプとその陣営は、団結した共和党の高揚感にあふれた党大会の姿を米国民に見せることによって、無党派層の中の中間派からのトランプ支持拡大も狙いました。トランプは指名受託演説を書き直したのです。これも暗殺未遂事件でトランプに同情が集まったのを利用したものです。トランプの演説はこうです。

 

 「我々の社会の分断を修復しなければならない。すべての米国民のために、大統領選に立候補する。半分ではない」「あの瞬間に頭を動かさなかったら命中していただろう。私は今夜ここにいるはずではなかった。全能の神の恩恵でこの場に立っている」「凶悪な攻撃があっても、我々はこれまで以上の決意を持って団結する。国民に奉仕する政府を作るという決意は揺るがない。この大統領選は、いかに米国を再び偉大にするかが争点であるべきだ。政治が我々を分断する時代に皆が同じ市民であることを思い出す時だ。異論を犯罪とし、政治的な意見の相違を悪者扱いしてはならない。民主党は司法制度を武器にし、政敵に『民主主義の敵』のレッテルを張ることを直ちにやめるべきだ」「米国の歴代の大統領の中で、史上最悪だった10人が与えた損害を足し合わせたとしても、バイデン大統領ほどの損害を与えていない」等々。

 

 前半部分はもちろん、トランプの本心ではありえません。本心であれば、自分こそがアメリカ国民を分断する政治をやってきたことを深く反省して国民に謝罪せねばなりません。アメリカの民主主義の政治の行動規範の核心の一つは、嘘をついてはならないということです。とりわけ大統領はそうです。大統領はアメリカ国民を代表しており、その言葉と行動は道義的でなくてはなりません。大統領はとりわけアメリカ民主主義と政治の規範を厳守しなくてはなりません。キリスト教の律法も嘘をついてはならないとしています。トランプは平気で嘘をつきます。事実と逆の嘘を、良心の痛みもなく平然とつきまくります。自分を善、正義に描き出し、対立者を悪、不正義にして否定するためです。こうして、大衆を騙し、洗脳して自分の信者にしていきます。上の演説も、無党派層の中間派を騙して、票を獲得するための巧みな嘘の洗脳演説です。会場の共和党員は熱狂的にトランプを支持し、「MAGA」を連呼します。それをテレビやSNSで見ている無党派層の中間派にもトランプに投票していく人はかなり出てくることでしょう。

 

 (4)バイデン大統領は大統領選から撤退し、カマラ・ハリス副大統領が民主党の大統領候補になりますが、トランプを再び大統領にしてはならないことは全く変わりません。トランプは前回2020年11月の大統領選で明確にバイデン氏に負けました。ブッシュ(子)元共和党大統領もすぐにバイデン氏を祝福する声明を出しています。獲得した選挙人数は306人対232人です。しかし、トランプは「私が勝っていた。バイデンが大量に票を盗んだのだ!」と主張し、敗北を認めませんでした。しかし、トランプ自身が指名した司法長官と国土安全保障省サイバー・インフラ安全保障局(CISA)長は11月12日の共同声明で、「投票システムによる投票の削減や改ざんや何らかのシステム侵入があったとの証拠はない」と表明したのです。CISAのクリス・クレブス局長はその5日後にも「米史上で最も安全が確保された選挙だった」との声明を出しました。するとトランプはクレブス局長とバー司法長官を報復解任したのでした。トランプは正義を行う閣僚や高級官僚を違法な権力行使で解任していく人物です。12月14日に選挙人団の投票がなされました。バイデン氏306票、トランプ232票。12月15日には、共和党上院院内総務のミッチ・マコネル氏がバイデン次期大統領に祝意を送りました。

 

 選挙人団の上記の投票結果は、21年1月6日の連邦議会上下両院合同会議で最終的に確認されることになっています。トランプは敗北を受け入れることを拒否し、「バイデンは票を盗んだ。不正選挙で勝ったのだ!」とアメリカ民主主義を破壊する戦いを続け、共和党議員に投票結果を覆すよう異議申し立てをするように圧力を加え、異議申し立てに反対するマコネル院内総務らを繰り返し攻撃しました。トランプは1月5日に、「票が盗まれるのを止めなければならない!」とツイートし、6日に大規模な抗議集会とデモをすることを支持者に呼びかけました。

 

 1月6日の合同会議で、共和党下院議員は211人中130人以上がトランプに従って異議申し立てをしています。そして、トランプは上院議長を兼務して合同会議の議長を務めるペンス副大統領に、投票結果を握り潰すよう命じたのです。ペンス氏は法に反すると拒否しました。するとトランプは一部武装もしている数千人の支持者に対して、「票が盗まれるのを止めなければならない!みんなで議事堂に向かって行進し、この国を取り戻すために強さを見せつけなければならない!」と煽動しました。自分の命令を拒んだペンス副大統領についても、支持者たちに「ペンスを打倒しなければならない!」と煽りました。支持者の中から、「ハング・ペンス!ハング・ペンス!」(ペンスを絞殺しろ)の声が湧き上がりました。数千人の暴徒たちは議事堂へのデモを行い、議事堂を襲撃し、突入して占拠しました。警察官を含む5人が死亡しています。

 

 選挙によって権力の平和的な移行を行うことは、民主主義の土台を成す制度です。公正になされた選挙結果の受け入れを拒み、支持者に議事堂を暴力で襲撃させて、正当な選挙結果を否定してトランプ勝利を捏造しようとしたトランプが、アメリカの憲法、アメリカの民主主義、自由の破壊者であることは明らかです。法の支配、民主主義、自由を守り、それを愛し、道義を重んじ、良心がある人であれば自明のことです。トランプは保守派なんかではありません。アメリカ憲法と民主主義と自由を破壊していく反体制独裁主義の極右過激派のポピリストです。語られる表面的な言葉は異なりますが、体質や行動様式は共産主義者と同じです。

 

 トランプはエスパー国防長官に命じて軍を動員して“不正選挙疑惑”の調査をさせようともしました。“不正疑惑”と言ってますが、軍を動員して圧力をかけて選挙結果を覆そうとしたわけです。エスパー氏が拒否すると、トランプは彼を解任し、子分のミラーを国防長官代行にしました。ミラーはトランプと同じように「闇の政府がアメリカを支配している!」という陰謀論を主張する人物です。戒厳令発動の噂まで流れて、とても危険な状況でした。それで21年1月3日に、歴代共和党と民主党政権の国防長官10人全員が連名で、トランプが公正になされた選挙結果を受け入れず、反対する行動や軍隊や軍関係者を巻き込もうとする動きを批判する文をワシントン・ポスト紙に発表しました。トランプが、いかに法の支配と民主主義を破壊するアメリカにとって危険な存在であるかがわかるでしょう。

 

 トランプに解任されずに残っていた政府高官の多くも、1月6日の議事堂襲撃・占拠事件を受けて続々と辞任していったのです。より詳しく知りたい方は私の21.3.13アップと4.4アップの拙文をご覧になってください。トランプこそがアメリカを分断させてきた張本人です。特別検察官は2023年8月に、この連邦議会議事堂襲撃・占拠事件でトランプらを起訴しました。当然のことです。

 

 この24年7月の共和党大会にペンス前副大統領は欠席していますし、ブッシュ元大統領もチェイニー元副大統領も欠席しました。2012年11月の大統領選の共和党の大統領候補のミット・ロムニー上院議員も欠席です。みんな危険なトランプに抗議して欠席したのです。

 

●トランプはアメリカ第一主義(孤立主義かつ道義性なし)で、中露北等の独裁者と共に国際平和秩序を壊していく。アメリカ孤立主義は、アメリカの亡国への道である

 

 (1)トランプは国際平和秩序(侵略を否定し、自由と民主主義に支えられたリベラル国際秩序のこと)を守る側の人間ではなく、破壊していく側の人間です。本来の米国共和党は、国際平和秩序を守る政党です。しかし、トランプは2016年の大統領選で大衆を煽動してその支持を受けて大統領に当選すると、その後の4年間で共和党員を変質させてトランプ党にしてしまったのです。18年11月の中間選挙と20年の大統領選挙で、連邦下院議員に立候補する者は、トランプに支持されなければトランプ信者の共和党支持者に予備選挙で落とされてしまうので、トランプに従う議員が当選することになりました。3分の1ずつ改選される共和党の上院議員も同じことです。

 

 (2)しかし16年の大統領選では、立候補した17名の共和党員はみなトランプを非難していたのです。というのは、トランプ一人だけ保守派を自認せず、つまり極右であり、「クリミア半島はロシアのものだ。プーチンは有能な指導者で、オバマよりも優れている。私ならプーチンにも尊敬される大統領になる。ロシアに対する経済制裁は解除する」「NATOは時代遅れになった」「我々は世界の軍隊、警察官でいる経済的余裕がない」「日本、ドイツ、韓国などが駐留米軍の経費を全額払うことに応じなければ出ていく準備をしなければならない」「外国からの輸入品には高関税をかける」等々と「アメリカ第一主義」の主張(それは従来の共和党の思想と政策と対立する)を展開していたからです。予備選を最後までトランプと争ったテッド・クルーズとマルコ・ルビオの両上院議員も、16年の党大会では大統領候補に指名されたトランプを支持することを拒否したのでした。だが、本選挙ではトランプを支持しました。アメリカと世界を護る高貴な責務よりは、自分らの地位を優先したということになります。他の党の有力議員も、予備選ではトランプの危険性を批判していましたが、やはり本選ではトランプを支持したのでした。

 

 (3)16年8月8日、共和党政権で外交・安全保障を担当した元政府高官50人が、トランプについて、「米軍最高司令官になる資格はなく、国を危うくする!」と不支持表明をニューヨーク・タイムズ紙に出しました。ワシントン・ポストは、投票前日11月7日に、民主党大統領候補ヒラリー・クリントン氏を公に支持した78人の共和党員のリストを発表しました。歴代共和党政権の外交・安全保障の元高官も多く含まれていました。しかし、そのうち現役議員は引退予定の下院議員ただ一人でした。現役の共和党有力議員の一部は、本選でもトランプを支持することを拒みました。ジョン・マケイン、マーク・カーク、スーザン・コリンズ、ケリー・アヨッテ、マイク・リー、リーサ・マッカウスキー、ベン・サスの上院議員そしてオハイオ州のジョン・ケイシック知事、マサチューセッツ州のチャーリー・ベイカー知事、ミット・ロムニー元マサチューセッツ知事、フロリダ州のジェブ・ブッシュ元知事もトランプ支持を拒みました。ブッシュ(子)元大統領は沈黙を守った。しかし、誰一人、ヒラリー・クリントン氏を支持することはしなかったのです(スティーブン・レビッキー、ダニエル・ジブラット共著『民主主義の死に方』95、96ページ。新潮社2018年9月25日発行。大森の16.12.28アップ拙文)。

 

 もしこの時、共和党の現職の有力議員と州知事が、歴代の共和党政権の元高官と一緒に、「国と世界秩序を守るために、政策に違いはあってもヒラリー・クリントン氏に投票してください」と共和党支持者に訴えていたならば、トランプの当選を阻止できていたでしょう。そうしたら現在の共和党にはなっていませんでした。

 

 (4)日本の保守派にはトランプを熱烈に支持する人が多くいます。彼らが持ち出すのは2017年12月に策定されたアメリカの「国家安全保障戦略」です。「中国とロシアは米国の国益や価値観と対極にある世界を形成しようとする修正主義大国であり、中国とロシアが米国と同盟国にとっての最大の脅威だ」とするものです。それに基づいた2018年1月の国防総省の「国家防衛戦略」です。前者を作ったのは、国家安全保障担当大統領補佐官のマクマスター氏とマティス国防長官です。後者はマティス氏。一期目のトランプは自分でも大統領選に勝てるとは思っていなかったので、政権を作る準備は全くしていなかった。そのためにこれまでの共和党政権や民主党政権を担った有能な高官たちを指名するしかなかったのでした。

 

 マクマスター氏もマティス氏も、トランプがアメリカの外交・安全保障政策をめちゃくちゃにしてしまわないようにと、これらの戦略を作成したのです。しかし、トランプは両戦略に敵対していったのです。私たちはここをしっかり認識しなくてはなりません。トランプは国際平和秩序を守るのではなく、破壊していく側の人間です。マクマスター氏はトランプに交代させられ、マティス氏はその前に抗議の辞任をしたのですが、解任や辞任したその他の多くの高官たちも、みんなトランプに抵抗してきた人たちです。その人たちの抵抗がなかったら、もっとひどいことになっていました。トランプは前記戦略を否定する人物なのです。

 

 トランプがどんなことをしてきたのか何度か書いてきましたが、私の文は読んでくださる人は少ないし、紹介してくださる人となればほんのわずかでしょう。だからここでも繰り返し書きたいのですが、紙幅に限りがありますので、2019.12.20アップの私の拙文の2節目と2021.4.4アップの文の4節目をご覧になってください。トランプにとって、プーチン・習近平・金正恩は「大いなる尊敬と親愛の気持ちを持つ友人」なのです。だから、2019年6月のG20サミット(大阪)で、トランプは「ロシアをG7(G8)に復帰させるべきだ」と主張しました。トランプと同類の安倍首相もロシアを復帰させるべきだと主張しました。トランプは北朝鮮が2019年5月から10月にかけて11回も新型の短距離と中距離ミサイルの発射実験をしても、「金正恩委員長との関係は良好だ。私たちはうまくいっている。私は彼を尊敬しているし、彼も私を尊敬している」と述べて安保理決議違反なのに「発射は問題ない」と言ってのけたのです。アメリカに届くICBMの発射ではないからです。米国で上院が2019年11月19日に「香港人権・民主主義法案」を全会一致で可決し、11月20日に下院でも417対1で可決したとき、トランプは11月22日に「香港を支持するべきだが、習近平国家主席は友人だ。私は習氏も支持している」と述べたのです。

 

 2018年8月13日米議会(共和、民主)は2019年度(18年10月から19年9月)の「国防権限法」を成立させました。議会は中国とロシアを想定敵国として米国の軍事力の強化を大統領に義務付けました。ところが、トランプは18年9月25日の国連総会演説で、ここ西半球で外国の拡張主義勢力による侵略から独立を守ることが我々の決意だ」と述べたのです。誰も批判しませんでしたが、これは中国とロシアと北朝鮮等が東半球、つまりインド太平洋、欧州、中東、アフリカで侵略を行ってもアメリカは戦わないと表明したものです。中国、ロシア、北朝鮮、イランも直接アメリカ本国を攻撃するつもりはありませんし、東半球で侵略を行うのです。この演説の中でトランプは「私の友人である習近平国家主席に対して大いなる尊敬と信頼の気持ちを持っている」と述べています。トランプ演説は米国の前記の「戦略」と「国防権限法」を否定したものです。

 

 (5)もし、トランプの24年11月の大統領選での勝利を許せば、2期目のトランプは政府高官と中堅幹部官僚までごっそりと自分に忠誠を誓う者たちに入れ替えてしまいます。1期目とは全く異なります。官僚経験のない者でもどんどん採用します。そして、トランプは侵略者プーチンを支持して、ウクライナに現状での停戦を迫っていきます。私の24.5.19アップの「米大統領選では、トランプの勝利を絶対阻止しなければならない。米国と世界を破壊させないためだ」を参照していただきたいと思います。何しろトランプは2022年2月24日のロシアの全面的ウクライナ侵略戦争を、「テレビを見て、私は『これは天才だ』と叫んだ。プーチンはウクライナの大部分に軍隊を侵攻させたと宣言した。なんと素晴らしいことじゃないか!」とインタビューで言った男です。トランプはプーチンの同志で侵略を支持した人物なのです。

 

 トランプは上院議員のJ.D.バンス40歳を副大統領候補にしました。バンスはトランプに忠誠を誓う人物であり、孤立主義者です。バイデン政権のウクライナへの追加軍事支援にも激しく反対してきた人物であり、また、「和平実現のためにはウクライナの大幅な領土譲歩が必要だ。これが解決に向けた唯一の方法だ」と主張してきた男です。ロシアのウクライナ侵略について、「ウクライナがどうなろうと知ったことではない!」と発言したこともある人物です。トランプのクローンです。ロシア外相は早速「歓迎する」と述べました。

 

 (6)トランプは孤立主義者であり、EU内にいる米軍もアメリカ本国に戻そうと考えている男です。ボルトン氏の『回顧録』474ページにも出てきます。NATOからも脱退する(あるいはNATO条約を破棄する)と言っています。在欧米軍を撤収するということは、アメリカはロシアが欧州に軍事侵略しても軍事介入することはしないということです。これは核大国のロシアにウクライナだけでなくEUをも侵略することを可能にする道です。アメリカが孤立主義になることは、全ての侵略国家を勇気づけて侵略を促すことになります。中国と北朝鮮とイランとロシアは同盟国であり、中国と北朝鮮とイランはロシアのウクライナ侵略戦争を軍事的経済的に支援しています。トランプがもし大統領になれば、NATOに対してなされることは、米日同盟、米韓同盟、米フィリピン同盟、米国と台湾の準同盟等についてもなされていくことです。

 

 (7)アメリカが戦後においてユーラシア大陸の周縁部(リムランド)の国々と軍事同盟を結んだのは(NATO、米日、米韓、米台、米国とイスラエルの同盟等)、ユーラシア大陸を支配するランドパワー(ロシア・中国)にその周縁部を支配させないためです。つまり、米国とリムランドの同盟国とでランドパワーを包囲して封じ込めるためです。もしランドパワーにリムランド支配を許せば、アフリカも支配されて、アメリカは旧大陸によって逆に包囲されてしまうことになります。そうなると、南北アメリカのみでは国防上の物資の需要を賄えず、アメリカは弱体化し、最終的に敗北することになってしまいます。だからこそ、アメリカはユーラシア大陸のリムランドの国々と前記の同盟条約を結んでランドパワーを封じ込めてきました。アメリカがリムランドの国々を共同防衛することはアメリカ自身の利益であり、アメリカを防衛することなのです。これがアメリカ人ニコラス・J・スパイクマン(1894-1943年6月)の地政学です。アメリカ孤立主義はアメリカの亡国への道なのです。トランプは孤立主義者だけでなく、侵略独裁支配者のプーチン、習近平、金正恩を「尊敬する。友人だ」と言う、道義も一切ない反米的な人物なのです。私たちにはこれを深く認識することが求められています。

 

 (8)前後が逆になりましたが、トランプ陣営の研究機関の「アメリカ第一政策研究所」が政策報告書を公表しました。嘘を平気でつくトランプ陣営なので書かれていることを文字通り読むと騙されます。しかし、「軍事力の慎重な使用に努める」「米国自体が先の見えない他国の戦争に関わることを避ける」と述べているところは(『正論』2024年7月号167頁)、本心です。中国やロシアや北朝鮮などが周りの国々を侵略するとき、侵略された国は国の存亡に関わりますので、長く戦い抜きます。その時、トランプが大統領になるアメリカ第一主義の孤立主義の米国は“同盟国”を見捨てるということです。だから、これは独裁主義侵略国に侵略を促す政策です。そもそもトランプには「同盟国」の概念はありません。

 

 (9)トランプは口先では勇ましいことを言いますが、実際は違います。ジョン・ボルトン氏は、『ジョン・ボルトン回顧録』の12章「道に迷い怖気づくトランプ」で、トランプは、イランの革命防衛隊やイランの手下のフーシ派などにアメリカの同盟国が攻撃され、アメリカの無人航空機が撃墜されても、怖気づいて一切反撃しなかった事実を克明に記しています。2019年5月12日、オマーン湾で、ノルウェーのタンカー1隻、2隻のサウジアラビアのタンカー、1隻のアラブ首長国連邦のタンカーが攻撃されました。5月14日、サウジのパイプラインがイランの手下のフーシ派に攻撃されました。6月6日、米国の無人航空機がフーシ派によって撃墜されました。6月13日、オマーン湾で2隻のタンカーが攻撃されます。1つは日本企業所有。6月19日はイラクのバスラで石油会社3社(エクソン、シェル、エニ)がロケット弾で攻撃されます。イランの手下のシーア派民兵が実行した。同日、サウジの淡水化プラントにある発電所がフーシ派のミサイルで攻撃されました。また、同日それを上回る重大攻撃にありました。米国の無人航空機のグローバルホークがホルムズ海峡上空でイランに撃墜されたのです。6月20日に米国はやっと報復案を作ります。グローバルホーク撃墜を担ったイラン沿岸部にある3箇所の軍事施設を攻撃するものです。その軍事施設はロシアが作ったものです。しかし、トランプはその報復攻撃を決行10分前に取りやめることにしたのです!ボルトン氏たちトランプの顧問たちは絶句しました。8月20日にまた米国の無人機がイエメン上空でフーシ派によって撃墜されました。しかし、トランプは報復することはありませんでした。

 

 アメリカは2020年1月3日に、イランの革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官を米軍の無人攻撃機で、バグダット空港の外で車列を攻撃して殺害しましたが、これだって渋るトランプを顧問たちが「ここで行動しませんとあなたの信用にかかわることになると思います」とか言ってやっとなされたものだと言えます。イランは1月8日に報復としてイラク国内の米空軍基地を弾道ミサイルで攻撃しました。10発が着弾しましたが負傷者は出ませんでした。トランプはアメリカは軍事報復はしないと声明まで出しました。

 

 ソレイマニ殺害は、イランが2019年12月27日に手下のイラクのシーア派民兵「カタエブ・ヒズボラ」に、イラク北部の米軍基地をロケット弾30発で攻撃させ、31日にカタエブ・ヒズボラの支持者がイラクの米大使館を襲撃したことへの報復でした。イランの1月8日の報復に対してトランプが前記の声明まで出したのは、イランが「もしアメリカが反撃するならば、イランは中東全域にある米軍基地を攻撃することになる!」と恫喝していたからです。トランプは世界各地の米軍をアメリカ本国に戻したいと思っているから、イランと戦争したくないのです。

 

 (10)トランプは2020年2月29日に、アフガニスタンのイスラム主義テロ組織タリバンと、2021年5月末までにアフガニスタンに展開している米軍を完全撤退させるという協定を結んだのです。トランプの顧問のほとんどは、「対テロ対策に必要な米軍部隊は残さなくてはなりません」と反対したのですが、トランプは無視しました。トランプはアフガニスタンとアフガニスタンの国民を、独裁支配者タリバンに売り渡したのです。米軍を撤収するとはこういうことです。トランプ支持者はこの事実を見ようとはしません。バイデン政権はこの協定に従って撤兵するしかなかったのです。

 

●トランプを2期目の大統領にしない唯一の方法は、共和党の元政府高官や元州知事や退役軍人高官が連名で、トランプがアメリカと自由世界を破壊していく人物であることを述べて、心ある共和党の現職連邦議員と州知事を動かして、現職が中心になって共和党支持者と無党派層にハリス副大統領に投票してくださいと訴えることである

 

 (1)紙幅を越えてしまいました。だから24.5.19アップの拙文の2節目をご覧になっていただきたいと思います。共和党の現職議員や知事がトランプ批判をすることは、自らの現在の地位を失う高いリスクを負うことになりますが、アメリカとアメリカ国民と自由世界のために私益を投げ捨てて戦っていってほしいと切望しています。私たち日本人も個人として、また共同して上の働きかけを行うことができます。

 

 (2)現在は「ポスト・トゥルース社会」と言われます。嘘や誤った主張でもそれを繰り返し宣伝して支持者を多数得るならば、その主張が真実(トゥルース)になるという社会のことです。私たちはそのような社会を否定しなくてはなりません。嘘をつくことは民主主義政治の核心的規範に違反しています。大勢に抗して正しい主張をしていくことはとても大変なことですが、一人一人の勇気ある行為が現実を変えていく力だと信じます。

 

 (3)日本人は、閣議決定によって軍隊を保持する政治課題を早急に実行していかなくてはなりません。本来の憲法9条、GHQの憲法9条案も自衛権行使のための軍隊の保持を認めています。閣議決定で日本は1日で軍隊を持てるのです。それは政府・内閣の義務です。これは日本の存亡がかかる問題ですが、これまでの私の23.8.10アップ、24.2.8アップ、24.4.21アップの拙文などを見ていただけたら、と思います。

(2024年8月4日脱)