たゆんだ自転車のチェーンのカラカラ…チャリチャリと鳴り響き音はが側溝に入り
また側溝の穴から鳴り出てくる。
漕ぎ出しが同じだったタイミングも漕ぎ続けるとバラバラになっていく。
4人は、コンクリートと排気ガスの臭いが、
徐々に草木の青臭さと家畜の匂いに変わっていくのを感じながら自転車を漕ぐ。
臭いが変わり始めたところで、門太が別れる。
門太「じゃあまた明日ねー!」
三人「じゃあねー!」
慎太「今日は、ため池突っ切る?」
羽鳥「良いよー!雅ん家もそっちからの方が近いしな!」
雅「おれは、どっちでも良いよー!」
慎太「ジャブ池ってどうなん?人気あんの?」
袋のため池に、比較的最近できた通称"ジャブジャブ池"とよばれる
アトラクション感のある遊具と水深浅い大きな人口池がある公園である。
羽鳥「いや、最近廃れてっしょ!」
慎太「もう?笑」
雅「子供とかちっちゃい子が行く感じだもんね!」
「なんか噴水も将来、できるらしいよ!」
羽鳥「ちょっとみてく?」
慎太「良いね!」
左右にため池を分ける大きな道路を真っ直ぐ突っ切るだけで、
雅の家のある琴田方面にすぐに入るのに
引き返す様に左の遊歩道に自転車で入ってく。
散歩する地元民とすれ違いながらジャブ池に向かう。
慎太「おお!なんか遊具増えてね?気のせい?」
羽鳥「廃れてんなぁ〜もう行こうぜ!」
雅「いや、言い出しっぺ、早っ!」
羽鳥「"さくら橋"通って行こうぜ!」
慎太「おめぇ、さくら橋、チャリで行くの好きだよなぁ
さくら橋通りたかっただけかい!!!笑」
雅「もうちょっと暗くなると、電気ついて綺麗だよね!」
「チャリ通って良いんだっけ?」
羽鳥「良いっしょ!別に。笑」
慎太「真ん中の屋根のあるベンチん所にカップルとかいたら気まずいんだよね」
羽鳥「それが良いんじゃん!タメとかいたら面白いじゃん!」
雅「やめ、やめぇい!笑」
「茶化したら可哀想じゃんかよ」
慎太「羽鳥、それが目的かい!笑」
羽鳥「前に、居たんだよ、誰だっけ…ほら、一年の時に3組か7組かのさ
琴田の、…あれと…」
慎太「いや、全然わからんわ!笑」
雅「3組か7組って、前半と後半だし全然違うやん!笑」
3台の自転車が例の櫓屋根のベンチを通る。
羽鳥「んんだよ!!誰もいねぇじゃん!」
慎太「わっははは!残念だな!笑」
「うらっ!帰るぞ!」
自転車は、さくら橋を渡りきり右に曲がって
寂れたシーソーを左目に映して大通りへ向かう。
10分で着く道を、青春を噛み締めるように
3倍の時間をかけて漕いでゆく。
10年後20年後の中学生は、このゆっくりとした趣のある時間を理解できるだろうか。
人の気配とガソリン臭が消え、夕陽と土の臭いが消えゆく辺りで雅も別れる。
雅の家とは反対方向へ向かい羽鳥の家の方へ前輪を向ける。
慎太「デイリー寄る?」
羽鳥「ヤモト?良いね!」
慎太「いつもの食おうぜ!」
羽鳥「おやつコロッケな!まじで美味いよね!60円だぜ?」
慎太「マジで最強よな!先輩らぁ居なきゃ良いけどな。めんどくせぇからよ。」
羽鳥「女バレの先輩なら良いだろ?」
慎太「居るとしたら2個上っしょ?それはそれで兄貴の代だから絡まれるんだよな」
羽鳥「絡まれるってより、可愛がられるって感じじゃん!めっちゃ良いじゃん」
慎太「いや、居そうだなぁ〜」
羽鳥「居ない居ない!もし居たら、俺がコロッケ奢ってやるよ!だから行こうぜ」
慎太「マジ?じゃあ行くか〜。」
「じゃあフェアじゃないから、誰も居なかったら牛串おごってやるよ!」
羽鳥「うっしゃ!」
結果は・・・
慎太「居ない・・・」
羽鳥「いぇ〜い!!!牛串頂き!!!ごっつぁんでぇ〜す!」
慎太「まあいいよ!買い食いできるし!行こうぜ!」
店員「いらっしゃいませ〜!」
慎太「牛串2本と〜」
とその時、、、
店員「いらっしゃいませ〜」
ヤモさん「あれ?タイキの弟じゃん!また羽鳥と来てんの〜?」
続々と2個上の女バレが入ってくる。
「おっ!タイキの弟じゃん!買い食い?イケナイゾ〜?」
「おっ!タイキの弟じゃん!部活帰り〜?」
慎太「いやいや、自分らだって!笑」
ヤモさん「ウチは、家に帰ってきただけですから〜」
「ウチらは、友達の家にきただけ〜(笑)」
慎太「んだそれ!ずっけえな!」
慎太「おい!羽鳥ぃコロッケ奢れよな〜」
車が横付けでやっと2台とめられるくらいの駐車場で
自転車2台には、広すぎるが、申し訳程度に端っこに寄せて後輪のセンタースタンドを立てる。
サドルに跨り、コロッケと牛串を頬張る。
浮いた後輪だけが夜に逆らって回る。
中学2年の男子生徒2人と自転車の前輪だけが時を止めて思い出を深める。
慎太「うめかったぁ〜」
羽鳥「じゃあ俺帰るわ〜」
慎太「おう!哀ちゃんと春によろしくねー」
羽鳥の妹と弟だ。
哀ちゃんは、俺らの二個下
春は、まだ産まれて2年経ってないだろうか
バブバブしている可愛い男の子だ。
まだ暗闇に入りきっていない蜃気楼のような夕陽に今日と明日の境目をみて
少しニヤけながら家路に自転車をこぐ。
何気ない毎日の夕暮れのひとときがこんなにも深く尊いなんて。