ようこそ、快楽原理の底の底へ。

ここにあるのは深い安寧。
覚めない夢こそ至上の揺り籠。

理性と本能、不快と快楽。
どちらに寄るかは、貴方の心が命じるままに。

――では、その女の話をしよう。
淫らに現実を侵す、おぞましい愛の末路(はなし)を。

――女の話をしよう。
目覚めた時から、女は病理に繋がれていた。

重い鎖は満遍なく。
つま先から頭まで、ミイラの如き死に化粧。

自由がない、と余人は憐む。
自由はない、と彼女は喜ぶ。

鉄のドレスは難攻不落。
城門開いたその奥に、在るのは乙女か魔性の罠か。

他人の秘密は蜜の味というが、さて。

――女の話をしよう。
着替えた時から、女は衆目を集めていた。

虫も殺せない可憐さで、女は男を管理する。

節度のある生活を! なるほどそいつは聞こえがいい。
無駄のない人生を! いかにもそいつは素晴らしい。

待っているのは計算監獄。無垢なるものこそ残酷だ。
眉目秀麗、品行方正。なのにどうしてこうなった?

愛に濡れた唇は囁く。
(愛を知った時、女は魔物に変生する)“貴方のすべてを、私に下さい”

愛しみと憎しみは本来、別々のもの。
それが一つのものとして語られる時、
これらをつなげる感情が不可欠になる。

――狂気だ。

狂おしいほど愛している。狂おしいほど憎んでいる。

他人への想いがこの域にまで達した時、愛憎(かいぶつ)は現れる。

……とかく、一目惚れとは暴力のようなもの。
する方は幸福だが、される方には不意打ちだ。

――女の話をしよう。
肥大化した自我は、女の人生を食い潰した。

誰だろうと夢を見る自由はある。

理想の自分。理想の快楽。理想の未来。
理想の他人。理想の恋人。理想の別離。

誰だろうと、安い夢を見る自由はある。
だが、その大半は悪夢(わるいゆめ)だ。

――女の話をしよう。
どうせ食べるのなら、まるごとがいいと女は思った。

支配者にして処刑人。
調理人にして毒味役。

美食を重ねること数百人。
堪能、溺愛、泥酔、絶頂。
ふしだらな食事のツケは頭に生えた異形の魔羅(つの)か。

だがまあ、そう珍しい事でもない。
美しい少女を貪るのは、男性女性(ニンゲンども)の本能だ。

愛に溺れた瞳は語る。
(愛を守る時、女は女神と等しくなる。)“私のすべては、貴方のために”

おまえの体が目当てだ、と男は笑った。
まるでケダモノね、と女は言った。

おまえの心は俺のものだ、と男は笑った。
ええその通りよ、と女は言った。

助けてくれ、と男は言った。
ケダモノではまだ足りない、と女は笑った。

愛しているのに、と男は言った。
ええその通りよ、と女は笑った。

男女はヴェールの向こうで一つになる。
癒着する肌のように。熱に溶ける氷のように。

溺愛を具現する女は笑う。
すべてを支配してこそ、真実の愛たり得るのだと。

――最後の話をしよう。
儚く現実に破れる、当たり前の恋の結末(はなし)を。