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内容(「BOOK」データベースより)
柏原野々は天然石を売る店で働く25歳の独身女性。厳格な父の教育に嫌気がさし、成人を機に家を飛び出していた。その父も亡くなり、四十九日の法要を迎えようとしていたころ、生前の父と関係があったという女性から連絡が入る。世間一般にはありふれたエピソードかもしれないが、柏原家にとっては驚天動地の一大事。真偽を探るため、野々は父の足跡を辿るのだが…。森絵都が大人たちの世界を初めて描いた、心温まる長編小説。
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厳格な父の突然の死、生前の浮気発覚、そして父の足跡を求めて・・・という内容からもう少し重々しいものを想像してたんだけど、かなり軽い感覚で読めました。軽いからというわけではないけど、全体的にも恋や人生に悩む若い女性向けの小説だなと思いましたね。

恋人である達郎の言葉を借りればまあこうちょっと「人生舐めた」ような浮ついた生活を送ってる主人公の野々や、その兄・妹たちとのあけすけな会話(実父の性についての)なんかに最初どうにもなじめなくて、「あーやっちゃったかなDASH!」と思ってたんだけどね・・・父の過去を知ろうと兄妹で佐渡に渡るあたりから所々「いいこと言うなあ合格」って部分もいくつかあって、プラマイゼロってとこです。

私も突然死に近い形で父を亡くしてるから余計共感できるところがあるのかも。実際そういうのを求めて読んでみようかなと思った本だったから。

例えばですね、初めて訪ねた父親の生まれ故郷・佐渡で、卒業した小学校や中学校を見て回る柏原家の兄妹がね、「思い出って、思い出話があってこその思い出だよね」ってことに気付くところなんか、よかったなー。

父親から子供のころの話を何も聞かされてない兄妹にとって、いくらその足跡をたどっても何の感慨も湧かないってことを言ってるんだけど、本当にそうだなと思う。思い出って「ああお父さんがよく言ってた○○ね」とか「よく一緒に○○したよね」とか、そういうことだもんね。

裏を返せば、一緒にしなかったこと、語り合わなかったこと、知りえなかった過去のこと、知らない一面・・・その方が多いんじゃないかと思う。だから、野々が、生前ついに和解することなく父親が死んでしまったことを、悲しいのか悲しくないのかはまだ分からないけど「ひどく残念なことではある」と感じるのは、すごく納得がいく。私と私の父は反目してたわけではないけれど、一体私は父の何を知っていただろうと思うと、突然逝ってしまったのは本当に「残念」の一言しか出てこないのだよ。

だからね、いきなり「私はあなたのお父さんと生前関係がありました」って女の人が現れたら、んーなんて言うか、「何を今更」とか「汚らわしい」とかそういうのより、「悔しい」って気持ちの方が強いかなーなんて思ったりする。つまり、「私の知らない父の一面をこの人は知ってるんだ」ってところに嫉妬するんですよ。えーっと、変ですかね?!あ、実は私ちょっとファザコン入ってますんで・・・(^▽^;)ハハ

野々たちはこの辺はもう少しドライと言うか、どちらかというと自分側にコンプレックスがあって、それを今まで父親のせいにしてきたんだけどそれは言い訳に過ぎなかったてことに気付いていく・・・そういう成長物語にもなってるわけで、あまりその相手の女性に関してどうのってのはないんですね。個人的にはもっとどろっとしたものを期待してたのでその辺はさわやかにかわされちゃったかな~です。

なんやかんや、父親の「暗い血」の真相は藪の中で、最後も予定調和的にすべてまるーく収まってしまうのがアレレなんだけど、それでも!!「父が死ななかったらこんな風にならなかったかもね、変な話」的な締め方が好きでした。そうなんだよ、すべては「死んじゃったから」なんだよね

死人の父親の話ばっかりになっちゃったけど、実はこのお話はもう少し野々の恋愛を軸にした話にもなっていて、読む人によって誰のどの言葉に反応するか分かれると言っていいでしょう。悩める乙女にオススメ、かな。

いつかパラソルの下で (角川文庫 も 16-5)/森 絵都

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読了日 2010年8月21日