子どもたちが通っていた保育園は、卒園式のあとに卒園児だけでなく全園児にチューリップの苗が配られる。

次女が0才の時からお世話になっていたから、いままで何本かの苗がうちにやってきたけれど、それが花を咲かせたのを見たことは1度もなかった。

でも、いつか近所に住む義父が枯れかけた苗を持ち帰り、見事開花させた。
ああ、花って、ちゃんと育てると、こうやって花を咲かせるんだ…と、驚いた。

だから、次女が卒園する年には、この苗を庭の花壇のごくわずかな日の当たる場所に植え替えて、大切に育てていた。

固く閉じた花の部分は、最初その花の色を見せずにいたけれど、水をやるたびに柔らかくなり、美しいピンク色を少しのぞかせてからは、毎朝、チューリップの開花具合をチェックするのが、子どもたちの楽しみになっていた。

でも、その楽しみは奪われた。
家を出て数日後に荷物を取りに戻った時、時間があればチューリップも持って出るつもりだった。
おそらく夫は、花に興味はないだろうし、早く保護しないと、私たちが大切にしていたものは、根こそぎ引っこ抜いてしまうかもしれなかった。
でも、限られた時間の中で、子どもたちの衣服やアルバムをまとめ、持てる限りの物を荷造りしている間に、チューリップの苗のことなど、すっかり忘れてしまっていた。

つまり、あの時の私には、チューリップは絶対に必要なものではなかったということだ。

チューリップを育てることが、贅沢なことだったなんて。
チューリップの花を咲かせることが、こんなに難しいことだなんて、誰が思うだろう。

{2C7B1E21-5A53-4B74-93CA-58721BE9FAE5:01}