明高の見たものは、実光が他の者を恍惚の表情で抱いている姿だった。
明高のことを忘れたかのように、明高より若い貴族を激しく抱く実光の姿がそこにあった。
実光は幾度かこちらを眺める様なそぶりをするが、すぐに目の前の男に集中し、激しく腰を打ち付けていた。
まるで明高を確認し、この状況を見せつけ、明高の事など眼中になしという姿にしか、明高には見えなかった。
明高は気が付かなかったが、明高のいる部屋は主室であり、実光のいる部屋からは簡単には見えないように出来ていたが、この部屋からは離れの部屋は覗き観れるように工夫がされていたのだった。
呆然と立ち尽くす明高は、愛しい人の裏切りをどう受け止めればいいのか分からず、悲しいかな享楽に酔いしれている実光の姿を只々凝視していた。
 
一方実光は、明高が自分のこのあられもない姿を見ているとも知らず、目の前の男と快楽に溺れていた。
この時、実光にはこの男が明高に見えていた、明高に妖艶に誘われれば、実光は自制が効かない、明高の火照る顔、身体を求めて幾度も幾度もおのれをうち入れるのだった。
実光の頭の中は靄がかかり全てが夢の中の様な感じだった、身体からくる快楽の刺激は強烈で、羞恥や自制心というものが剥ぎ取られなくなってしまったようであった。
実光のいる部屋には、実光が知らない幻覚作用がある粉を香炉に混ぜ、甘い香りを発する香と共にそれを部屋に焚き染め、そして今も焚かれていた。
この香りを一度嗅ぐと、高揚感が高まるがゆえに芳継は情事の際には必ずと言っていいほどそれを使っていたのだった。
実光は目隠しをされ連れてこられ、この部屋に通された時、むせ返るような甘ったるいこの香の香りに不安を覚えたのだった。
芳継が焚く甘い香りの香を嗅げば、今まで味わったことのないほどの幸せな気分になるという噂を耳にしていた、そんな話の中の一つに誰かが芳継の屋敷で焚かれた香の香りで、狂ってしまったという噂も耳にしたことがあった、その者は芳継が贔屓にしていたが、彼の不興を買った後に狂ってしまったと聞いていた、その時、この甘ったるい香が焚かれる密室に長い時間拘束されていたとう噂だったが、真相は闇の中のままだった。
その不安は的中していたのだが、今の実光にはその不安感さえない、この上ない高揚感と、享楽感が全身を蝕み正常な思考が出来なくなっていた。
芳継は実光が十分にその香りを嗅いだと思える頃に、実光を拘束していた物を明高に年恰好、声、そして顔がよく似た男に外させ、ここで待っていたと言い寄られたのだった。
正常な状態ならばその者が明高でないことなど、直ぐに見破られるのだが、朦朧とした思考の中では目の前の男が明高に見えて仕方なく、その男が実光の象徴を口に含み上目遣いで誘いをかければ、簡単に落ちてしまった。
実光は、知らぬうちに頼政と芳継の策に嵌ってしまったのだった。