その時やっと気が付いた、1年前と同じ格好と思っていたけど、ネクタイの色が違う。
前は、真っ黒のネクタイを締めていが、今日は、黒スーツは同じだけど、中身は黄色いシャツにオレンジ色のネクタイを締めている。その真ん中には、少し濃い朱色で彼岸花が刺繍されていた。


「彼岸花の君か・・・。」


思わずそう呟いた。


「彼岸花の君って?俺の事?」


「そっ、秋靖のこと。あの時、お前があの場所から居なくなった時、近くに彼岸花が咲いていたんだ。まるでお前が彼岸花にでもなってしまったんじゃないかって思ったんだ、まっそんなことないって分かっていたけどさ、実は俺もずっと気にかかっていたんだ。もう話は聞いてやらなくてもいいようだな、そのネクタイ。黒じゃない。」


「そんなことない!聞いてもらいたいから、敦盛を今日まで待ってたんじゃないか・・。他の誰でもなく、敦盛に聞いてもらいたくて、あの時、悔しいほど心が揺り動かされて、忘れちゃいけないって思っていた彼よりも、敦盛の事を考えることが多くなっていて、墓で何度か見かけているうちに、俺はあんたに恋心が芽生えていたんだ。だから・・だから・・前の彼の事を全部話してしまいたいんだ。」


絶句していた。

ここ墓所、告白受ける場所としてどうよ?いや、いいのか?ある意味再生の場所?
そんなことを頭の中で自問自答していて、秋靖の次の行動に全然ついて行けなかった俺は、俺より少し背の高い彼のキスを唇に受けていた。
あわてて身体を秋靖から引こうとしたら、手に持っていた水桶が彼の身体に当たったことで彼も慌てて俺から身体を離した。


「ご・・ごめん。俺・・ずっとしたくて。」


「あんさ・・、俺もその・・少しは気があるからさ、殴ったりしないけど、通常だったら殴られるか、蹴られるかしてるぜ?俺のことつけたり、ずっと見てたりしてたなんて言われて、気が無かったら、ストーカーって言われる部類になっちまうんだよ・・。わかってる?」


そう言うと、気まずそうにコクリと頷いた。
その姿が、なんか子どもみたいで、大のいい男前の男が小さくなってる姿って、巷でよく言われるワンコ、そのものに見えた。
確かに大型の猫なら、牙向いてフーフーやってそうだけど、ワンコは怒られるとシュンとしてうなだれる、奴のその姿が大型のワンコと重なって見えるもんだ、言い得て妙だなと一人感心しながら、彼の様子をしばし眺めていると、なんだかなぁ~情に流された俺は、あの時と全く同じセリフを吐いていた。

「まださ、墓参り済ませてないから、5分ここで待てるか?」

その一言を待っていましたとばかりの彼は、

「俺も、水汲みと掃除手伝わせてくれないか?そうすれば敦盛と一緒にいられるから。」

と、ちょっと懐くと大変な大型犬だった。
でも、ただ嬉しそうに傍にいる秋靖を邪険に出来るわけもなく、俺もお試しOKとした以上天国の彼の話を聞いてやるためにもこの場を離れて雰囲気のいい店にでも足を延ばそうと決め、早々に墓参りを済ませてその場を後にしようとしたんだ。

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