同じところで、同じ格好した彼、違ったのは、泣き顔ではなく微笑を浮かべた落ち着いたいい男前が墓の前で手を合わせていた。
この時も、水汲み場に俺は水を汲みに行っていた、そして聞こえてきたのが少しはにかむような笑い声。
そして、何か語りかけるような声。
どこの墓でも、よくある風景の一つだけど、1年前と同じ場所から聞こえたから俺はまた足をそちらに向けたんだ。


「やぁ、生きていたんだね。」


「ああ、あの時は、水をかけてくれてありがとう。嫌味じゃないよ。お蔭で少し頭が冷やされて・・・。でも冷たかったよ。」


怒ったような顔をしながらも、俺に会いたかったという感じがした。


「あの時、あなたが止めてくれなかったら、あの場で俺、自殺図ってたかも・・。でも、あんた見ず知らずの俺の事真剣に怒ってくれて。その姿にあいつの姿が重なって、俺、踏みとどまれた。きっと、あいつがあんたを俺に引き合わせたんだろうな。」


「その墓に入ってる人?」


「ああ、俺の大好きだった、彼。」


ん??彼??
俺の怪訝な顔に気が付いた彼は、


「ああ、俺ゲイなんだよ。引いたろ。別にあんたを取って食うつもりはないよ。ただ、そのあんとき聞いてくれるって言っていたのにさ、俺、あんたから逃げて帰っちまったから・・、その・・謝りたいのと、・・その・・聞いてもらえるのなら・・その・・」


真っ赤な顔して、上目使いで俺の顔を見るんだ。


「なに?俺に惚れたわけ?それって、吊り橋効果って言うの知ってる?」


気持ち悪いとか、驚いたとかそんなことはちっとも思わなかった、なぜなら、俺も彼と同じ類の人間だから。
俺が墓にしゃべりに来ていたことは、その事を周りにカミングアウトするには勇気がいるからで、生きていない人間にならカミングアウトして、色んなこと話せるから来てしゃべっていただけだった。
彼が俺にカミングアウトした時、不意に{類は友を呼ぶ}という言葉が頭に浮かんできた。


「あんた気持ち悪いって思わねぇのかよ?」


「思わない。同類だからね。でも、吊り橋効果ってのは、男と女だけじゃない。あれは人間の心理に基づいて言われていることだから、一種の気の迷いって言われて当然だろう。あの時、俺はただ、あんたをこのままにしていたらダメだって思って行動しただけで、俺があんたを気にいってああいう行動をとったて勘違いしないでくれよ。」


ゲイだと聞いて本当は嬉しかった。
でも、怖かった、俺は同類に何度も振られている、そう簡単に事は運ばないことだって、わかってる。気の迷いじゃ{じぁベッドに行くか?}なんて簡単いくわけがない。別にベッドに行きたいわけじゃなく、それだけ親しくなりたいってことなんだけど、俺にはその勇気が実はない。


「俺、惚れたって言ってない。でも、あんたの事気になるのは事実だ。何度かここであんた見てんだ。あんたが来てるの知ってて俺、あんたの後付けたこともある。最初は、濡らされた服のクリーニング代ぶんどってやろうかなんて思っていたんだけど、ここでの姿見てるうちにそんな気持ちなくなって、俺、あんた以外が見えなくなってきたんだ。」


「それって、病気?」


「茶化すなよ。なぁ、せっかく同類だしお試しでいいから、暫く俺と付き合わねぇ・・・」


さっき以上に赤い顔をして彼は俺にそう言ってきた。


「俺は、あんたの大好きだった彼の代わりにはなんない自信はある。俺は俺だ。それでもいいなら試で付き合ってもいい。」


意外と言えば意外だが、まぁ、物は試し、滅多にこんな出会いもないからか俺は気安くその申し出に乗っかった。
俺のイエスという言葉に彼は驚きを隠せないという顔をしながらも


「分かってる、あんたはあんただ。名前、教えてくれないか?俺は、秋靖(あきやす)秋という漢字に立つに青って書く漢字だ。」


「俺は、敦盛。源平合戦に出てくる敦盛の最後が母親が好きでね・・。」


名前を言うのはあんまり好きじゃない、理由は源平合戦の授業がある度にクラスの奴らから


『お前の名前出てんじゃん。お前死んでるじゃん。なんで今いんだよ。』

『過去の偉人の名前つけられてるわりには、大したことない人間だよな。』


なんてからかわれることが多くて、今回もどうせそうだろうと先に手を打っていたら、


「へぇ~平家の若武者の名前だよね、死に際もかっこいい。助けるという相手に、同情はいらないって言い放つくらいしっかりした武士だ。敦盛もそんな感じがあるよ。俺を叱りつけたあの時の姿は。」


ふと一年前の事を思い出したらしく、ふふっと含み笑いをし、そして少し潤んだ目で俺の顔を見つめてきた。


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