息が詰まった、暫く息もせず彼を凝視していた。こんなにも驚くようなことがあるだろうか、いや、もしかしたら私をからかっているだけなのかもしれないと、一度息を大きく吐いて


「冗談を言っているんですよね。私が喜ぶだろうって・・・」


「真剣に気持ちを伝えてくれる人に、冗談で返事を返すようなことは、俺はしない。ここで会った時から、あなたに惹かれる何かがあった。偶然なんてそんなことそうそうないだろうって、思いつつ、偶然また会える気がするって、あなたに言ったんだ。それが、現実となった。今日も、あなたに会えるかもしれないと、ここに来たんだ。いや、会いたくてここいるんだ。」


私の言葉を遮って、彼は真剣な面持ちで、言葉を選びながら話していた。その表情と言葉からは、うそは見当たらなかった。私の身体は小刻みに震えていた、手に汗が滲み出てきて、口の中はカラカラになり、このままこの場に倒れてしまうのではないかと思うほどのパルピテーション。


「まって・・・まって・・私、思考が追いつかない・・。それは、それは、なに?」私に対して好意を寄せていると言う告白なの?それとも、この状況に恋してる?


声にならない言葉と思考が上気した顔で、口だけがパクパクと動いていた。まるで池の鯉のようだと、冷静に働く脳内の部分がそう私に伝えていたが、表面の私の感情にはそれは届かず、脳内の精一杯の抵抗が、口を手で覆い隠すという行動となって現れていた。
彼は、座っていた席から私の隣の席に体を移し他のだれにも聴こえないように耳打ちするのだ。


「偶然のシチエーションと、椿さんに恋してる。」


耳にかかる彼の声と、息にぞくぞくとすると共にすぐそばのトイレに駆け込みたい心理が私の腰を座席から持ち上げようと、太股に力を入れ、口を覆っていた手が、それに追従するように両太股の上に降りてきた。
彼は、私がその場から離れようとしていることに気がついたのか、太股に降りてきた片手をぎゅっと握りしめて、眼で座るように促していた。強制をされたわけではないのに、私はそれ以上動くことも出来ず、ぎこちなく臀部に体重を預けていった。
私がおとなしく座っても、彼は私の手の上に重ねた手を離すことなく暫くそのままでいた、手から彼の体温と、緊張が伝わってくる、言葉に出来ない気持ちを彼も伝えようとしているのではないかと思いを巡らし、やっとのことで彼の顔を見るように顔を向けた。


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