きっと彼女の事、ここぞとばかりに目を輝かせ、顔を間近まで寄せて聞いてくると予想を立てていたが、


「な~んだつまんない。そんなのおもしろくもなんともないじゃないの。まぁ、私を残して結婚が決まったなんていわれるよかましってとこね。」


思いのほか彼女をいたく失望させてしまったらしかった。
願ったり叶ったりといったとこではあるが、人とは不思議な動物であるものだとつくづく思うが、な~んだですまされると、人の恋心を軽んじられた気分になり少々不愉快だった。
そうは言っても、これ以上彼女に追撃させるわけにもいかない私としては、


「そうでしょ。」


と作り笑いを浮かべて、自分の持ち場に戻ったのだった。
しかしフロアーに響いた彼女の声のお蔭で、聞き耳を立てていた若い従業員たちから、お昼の休憩時間に追撃が入ってしまった。


「さっき横田さんと話していた俳優さんって、誰ですかぁ?私も知ってます?」


「八坂さんが気に入った俳優って興味ありますよ~~。だって、八坂さんって芸能人に興味なさそうだもん。」


「どんなドラマに出てますか?」


矢継ぎ早に質問が私に向けて投げかけられた、私にしてみたら、投げかけられたと言うよりも、投げつけられたという感じではあったのだが、彼女らに悪意はないことは確かである、意を決してなるべくさらりとその場を切り抜けたく、彼の名前を口に出した。


「長山 耕介さんだよ。」


彼の名前を口から出すだけで、私の心臓は高鳴っていた。


「あっ、八坂さんかわいい、顔が赤くなってる。」


「ながやまこうすけって今、確かドラマの撮影で来てますよね。」


ドキドキと心臓が破裂せんばかりになっている、何も彼との間にあるわけでもないのに、なにか彼女に見透かされているようで怖かった。


「あっ、えっ、そうそう。」


「そう言えば!!今日、この近くで撮影やるって、友達から聞いたよ!!たしか・・・2時ごろだったかな?まってメール確認する!!」


1人の子が突然そう言った。


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