恋をしたという言葉繋がりからか、この日から私の鼻歌はドリカムの「うれしい・たのしい・大好き」になっていた、ふと彼の事が頭をよぎる度に歌っていたのだった。
その鼻歌は、職場でも変わらず気が付かないうちに口をついて出ていたようだった。


「八坂ちゃん、このところご機嫌じゃない?なにかいいことあった?」


鼻歌を歌っている私に気が付いた同僚の横田が、訝しげに訊ねてきた。
入社当時から一緒の独身を貫く中年女で、唯一の友人と呼べる相手なのだが、彼女はしゃべるダンプカーという異名を持つ人間で、彼女に知れると翌日には社の半分には話が広まっているというくらいのおしゃべりな人間で、俳優に恋をしているということはゴシップ好きの彼女には、危険すぎて口が裂けても話せないことだ。
またダンプカーと言われるほどの体格と、音量のある声の持ち主で、彼女の笑い声はフロアーどこにいても聞こえてくるほどの音量の持ち主だ。
そんな彼女餌食にされるわけにはいかないと、返事を曖昧に返してしまった。


「う?いや、そのまぁ、少しね。」


「ふ~~ん恋ね~。あんたがね~~。堅物が恋するってどんな人なんかね~~。」


私の動揺し曖昧にした返事で気が付いたのか、それともこのところの私の行動からなのか、彼女は見事にいい当て、増々持って私の動揺は広がり、ゴシップ好きの彼女の追撃を逃れる為に、彼女の大きなお尻を避けた際に、しこたま机に太ももをぶつけてしまい、かなりのいい音がフロアーに響いた。


「あら?図星!!適当に言ってみただけなんだけど!で!歳はいくつ!!」


皮肉なことに、彼女の追撃をかわすつもりが、彼女の大きな興味を引く結果となり、それも、フロアーに響くほどの声で嬉しそうに聞いてくるのだった。
もし許されるのなら、この場で彼女を蹴倒してやりたいほどの衝動が頭の中を駆け巡っていた。


「そんなんじゃないのよ。ある俳優を気にいっただけなの。」


どうにかその場を切り抜けたく、ごくごく当たり前のことを言ってみた。


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