時計で時間を確認すればまだ明け方、起きるにはまだ早いのだが、今見た夢を振り払いたい気持ちになり、ベッドから出て白いコットンキャミを身につけ、上に薄いピンクのヒートコットンのタートルネックシャツ、濃い紫のVネックセーターの順に着て、80デニールのブラウン色のタイツと、裏地にフリース素材が付いた紫系のシックなチェックのパンツを履き、白いダウンを羽織、朝の散歩に出かけたのだった。
外に出るとツーンとする空気が鼻から肺の中に入ってきた、梅の花が咲き始めたと言えども、まだまだ冬の色は濃く、身体の中に入る空気は、体の芯から身を凍らしてしまいそうな気がしたのだった。


(この寒さが私の欲情や、恋慕の炎を凍らしてしまえばいいのに)


そう心の中で呟き、はぁーっと手に息を吹きかけつつ、寒空でまだ人通りがない町を歩き出した。
自宅近くに新しく出来た幹線道路があり、少し薄暗さが残る朝の散歩にはその道が適当な気がし、朝の風景を見るつもりで出かけたのだった。
その幹線道路は、元々は山で何もなかった場所だったが、山を切り開き幹線道路を通したお蔭で、ちょっとした展望台のような場所になっていた。とは言え、そのことを知っているのはその周辺に住んでいる住人だけだ、眼下に広がる街と海、夜景や夏の風物花火など、特等席の気分でみられるのだが、幹線道路の歩道の上なため、シートなど敷いてゆっくりと眺めるというわけにはいかないというのが玉にきずなのだ。
私はその特等席に向かい、歩みを始めた。
静かで、時折タクシーが通るくらいしかない田舎町、薄暗い朝の静けさが夢を振り払うどころか、鮮明に思い出すことにしかならない、幹線道路を足早に歩いてお気に入りの場所にも止まらず黙々と歩いているうちに、朝日が昇り始める時間になっていたらしい、すり鉢状に広がる街が朝日色に染まり、夕刻に見られる姿とはまた違い初々しささえ感じられるのだった。
その光景は、私の心の中の情景さえも初々しく変化させ始め、


「私、本当に恋してしまった。」


今更ながら、そう思わせる瞬間となった。
その時からおぞましい欲望の塊としか思えなかった今朝の夢でさえ、愛おしく思えたのだった。


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