"芸能人に恋をしても、ただ苦しいだけ"


成就するはずもない想いに、煩わされるよりも、その想いを断ち切って、ただのファンになりきる事を望んではみたが、一度湧き上がった恋の熱量は下げるすべもなく、再び出会ったことで、増々温度計はあがってしまったのだ。
ドラマの撮影で、数か月にわたって行き来すると、彼は話してくれたが、撮影の場所は教えてはくれなかった。
教えてもらえるはずもないのに、どこかそのことを期待し、勝手に彼に対して裏切られた気分になっていた。
私は特別な関係ではない、頭ではそうわかっていても、特別な存在になりたい欲望がムクムクと夏の入道雲のように高く湧き上がってくるのだった。
もはや私に出来ることは、彼と偶然の再開を願って、この街を歩き続けるか、今までのように図書館へ行くことで、彼との時間の想い出を、思い出に変える作業に費やすこと以外、方法はなくなっているのだった。


なだらかな肩のラインから繋がる長い腕が私の身体にまかれ、綺麗な指が私の身体をゆるりと撫で上げていくのだ。時折見える、優しげな眼と悪戯な微笑を浮かべた顔がぼんやりと私の顔の前にあった。愛しい彼と確信している私は、躊躇することなく彼の腕に身体を投げ出したのだった。
しかし触れられる手の感覚があるようでない、擦れる肌と肌の感覚があるようでない、自分が甘い吐息をあげながら彼と情事をしている、耳元で


「あなたといることが幸せだ」


と彼の声がする、唇と唇が触れた時、私は目覚めてしまった。
トクントクンと体の内部が脈打つ以外は、私のベッドは私以外は誰もいないのだった。
何と残酷な夢なんだろう、自分の限りなく賤しい欲望が見せる悲しい夢、目覚めてこれほど悲しく、情けない想いに陥る夢はないだろう。私は彼とこうなりたいと願っているんだと、突き付けられる夢なのだ。
ただ、気になるだけの俳優とのこんな情事の夢なら、アッハッハと笑いとばし、仲の良い友人との会話の中で、笑い話の一つとして披露も出来るが、特別になりたいと願う彼との情事の夢は、彼を穢してしまったようで、懺悔したい気持ちにまでなってしまうのだった。


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