自分の頭の中から出て来た幻影をみてるのか、それとも、白昼夢なのかと疑いたくなるようなシィチュエーションだ。
とっさに


「ええ、空いてますよ。」


と上ずった声でなんとか答えた。


「よかった。ありがとう。」


そう言って、彼が私の隣の席に座った。彼が座る際、彼からほのかに心地よい香りが腰を下ろし、前に引いた椅子の音と共に漂った。バニラ系のほの甘い香りとシナモンのスパイシーな香りが混ざった何とも言えない良い心地にさせる香りがした。
ふと、周りを見渡せば、ガラガラの閲覧室、なぜゆえわざわざ私の横に座ったのかと訝しんでいると、


「ここからのみえる景色が気に入ったんです。なので他の席が空いてるけど隣に座らせてもらいました。」


ちょっと不敵な微笑を浮かべて、さらっと私の心の中で呟いた疑問に答えてくれていた。


「ああ、そうなんですね。じゃぁ、私、他の席に移りますよ。」


なんだかこの俳優の大切な一時に私のような者が入り込んではいけないような気がして、慌ててその場から立ち上がろうとすると、私の腕をそっと抑えて、彼は首を横に振り


「そのまま居てくださって構いません。こちらが後から来たのですから。僕が隣ではお嫌ですか?」


と、今度は少し悲しげな笑顔をこちらに向けて寂しそうな光を湛えた目が、私の目を捉えていた。
そんな表情と、目で語りかけられるとその場から立ち去り難い、なんとずるい表情をするのだろうと思いつつ、上げかけた腰をゆっくりと落とした。心臓が早鐘のように鳴り響く、全く予想だにしない再開と展開に頭の中が追いついていってないのだ。そんな私の胸のうちなど知る由もない彼は、ちょっと目を見開いて思い出したように私に話しかけた。


「そう言えば、さっき、この上にある神社の側のお茶屋でお見かけした方ですよね。この時間にこの場所にいらっしゃるということは、この辺にお住まいなんですか?」


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