龍と鳳凰が蓮華を中心として相対するように舞う飾り天井、そこから地上に向かって朱塗りの柱が幾本もある、その柱に青竜が絡みついている、柱と柱の欄干には、桃や蓮があしらわれ、この空間の豪奢な様子がそれだけでも伝わってくる。その空間を薄く紫色を纏った煙が漂っていた。採光に照らし出されたその煙は、時折生きているかのようにその動きを急激に変える。いや、それは何かによって動く空気の振動に合わせて変わっているのだ、立ち昇る煙の元を辿れば翡翠色の大ぶりの香炉が部屋のなかに煙りを放っていた、その香炉の側に天蓋のついたベッドが設置されていた。天蓋のカーテンが揺れている、それが香炉から立ち昇る煙を動かしている元であった。
 天蓋のベッドが激しく音をたてると、その音に合わせて艶めいた声が部屋に奏でられる。その奏でられた声に合わせて、香炉の煙が生きたようにうねるのだ。軋む音と、洩れる艶声、そこで繰り広げられていることは間違いなく情事。ただ、違うのは、交わっている二人には、どちらにも乳房が存在していない。そう、男と男が互いを求め合っていた。
 傍から見れば互いに求め合っているように見えるが、当の二人の間ではそうではない、一人は従えようと組し抱き、一人はそれを往なしながらも誘っているといったものである。二人の間では愛の囁きなど全くない、聞こえるのは吐息と、喘ぎと、荒れた呼吸。そして、ぶつけ合う肌の音。
 組し抱く男の髪の色は、栗毛色だ、華奢な体つきに似合わない、銃弾の痕と引き締まった背中、顔は鼻筋が通り小鼻が張っている、目は鋭い眼光を湛えた茶色の眼(まなこ)だ、肌の色はその髪や、目の色と似つかない黄色みがかった肌の色だ。身長は180cmほどある男だ。一目で美形といえるその容姿は女ならば一度は抱かれてみたいと思うほどの男だ。
 

その男に組し抱かれつつも、男の思うようには抱かせず、しかし男の想いを読み解き誘い込んでいる男は、その道のプロなのだろう、だが、擦れた感じは全くなく、それよりも観るものを魅了するその表情が絵もいわえず美しい。女形と言われるような感じであろうか・・。その男も美形と言われる類の男だ、体格体型は抱いている男とほぼ変わらないが、男ほど筋肉質ではないが、しなやかな筋肉で覆われていることはわかる、引き締まった腰には細く繊細な筋肉が浮かび上がり、そこから臀部にかけても無駄な肉はない、たとえて言うなら早馬の脚のような美しさだ。顔は、少し切れ長の眼だが、穏やかで優しさが浮かぶ黒い瞳だ、鼻は鼻筋が通っているが小鼻は主張するほど張ってはいない、唇は上下ともいい塩梅の厚みをもち、薄く開いた感じがとても艶やかだ。髪は黒髪で結い上げられ多くの簪がその髪にはさしてある、黄色みを帯びた肌の人種ではごく普通の髪の色だが、その髪の結い方はある国の遊女の結い方、遊女のなかでもごく一部の人間にのみに許される結い方だ。
 髪の毛がそれをあらわしているのか、組し抱いている男よりも、組し抱かれている男の方に余裕がある、艶声は抱かれている男から発せられてはいるが、行為そのものに溺れきっているようではない、むしろ組し抱く男の方が溺れているように思えた。


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