時貞は耳を疑った、運之丞からそのような言葉が出てくるはずがないと思っていたのだ、あの時、湯殿で頼み込んでやってもらったことに後悔していたのだ、いくら幼い時から知りつくしている者であっても、あのようなことは頼むべきでないと、ずっと思っていた。嫌だっただろうに、嫌な顔一つせず、自分の我が儘に付き合ってくれた運之丞に二度とあのような思いはさせまいと誓っていたが、先ほどの男女の交わりを聞いてしまってからは、後がない自分の身に、せめて、慰みでもいい。運之丞を残して居たかった。時貞の心の中には、運之丞を想う気持ちがいつしか芽生えていたのだ。その思いは、この城にきて、総大将となって、自分をさらけ出せなくなってからは、強く感じ、そして、自分でも抑えることが難しいくらい求めていた。それをしなかったのは、自分の立場という、鎖のおかげだった。しかし、それはあくまでも時貞の気持ちだ。運之丞がなぜに自分とそうしたいというのか、それも、時貞を下さいと言う。真意がわからず、戸惑う時貞は


「儂をくれと?運之丞、嫌ではないのか?お主は、お主は、儂を抱けるというのか?」


「嫌なことなどあるとお思いですか?でなければ、欲しいとは言いませぬ。時貞様を抱きたいのです。私に抱かせてくださいませ、佐々木殿のように、抱けるかどうかはわかりませぬが・・・。私は、時貞様と一つになりたいのです。私に時貞様の全てをください。」


どこか思い詰めたような運之丞の言葉に、時貞は不安を覚えた。


「運之丞、何かあるのか?どこか変じゃ。儂に隠し事しておるであろう。全て話せ、そちらが先じゃ。」


「時貞様に話していいものか悩んでおりました。しかし・・・、わかりました。お話いたします。」


運之丞は、自分の父上からの書状の中身を話してきかせた。時貞の顔が、青く変わっていくのが見ていてわかる。大きな目に泪が溜まってポロポロと頬を伝って落ちてゆく、運之丞はその泪を指で掬いながら、


「泣かないでください。誉れなのですから。」


「運之丞・・。」


時貞の顔が近づいたと思ったら、運之丞の唇に、涙でぬれた唇が押し付けられた。細くなった両手が、運之丞の頬を包んでいる。もう、我慢など出来るはずがなかった。時貞は、自ら重ねることで、運之丞に全てを託すという答えをしたのだ。押し付けた唇に、そっと舌を這わして運之丞の唇の形を忘れないように何度もなぞった。運之丞の両手が時貞の背中に回され、女子を抱きしめるように、時貞を抱きしめていた。唇を這う舌を運之丞の舌が捕えるように、絡めてきた。互いの舌を絡め合い、互いの口内を探るように深く深く口づけを交わしていた。口からズキンズキンと心に響く、高ぶる感情と想いがそのままシンボルに伝わり、ドクドクと血液を送っていく、時貞の身体は、佐々木の時よりも強くそれを感じて固くしていた。


「んん・・ふんっ・・」


思わず声が漏れ出てしまうほどの響きが身体を熱くしてきた、気が付けば、運之丞の手が、前のふくらみに這わされていて、そっと擦られていた。やさしい動きに腰が落ちてしまいそうだ、思わず、運之丞の肩にしがみついてしまった。


「時貞様、ここ、もうこんなになって・・。」


「運之丞だからじゃ、儂は、運之丞が欲しかった。運之丞に触れて欲しかった。」


「時貞様、私も、ほら・・。」


時貞の手を導いて、そこを触れさせた、運之丞のそれも大きく育っていた。一度火が付くと若い二人が途中で止めることなどできようか。袴の中に運之丞の手が入り込み直接触れてきた、この戦渦の中、自分ですることすらほとんどなく、久方の刺激に腰が引ける、それを止めるように運之丞の腕が腰を抑え込んでいた。唇を吸われながら、そこを扱われるだけで一気に達してしまいそうな状態だった。

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