佐々木の片手は、時貞の腰に巻かれ、時貞が自分から離れぬようにしていた。佐々木の顔を横目で確認すると、その横顔には、無表情の中に、情欲の炎が種火となってちらついているようだった。彼が、我慢の極致に来ていることが、その横顔や、腰に回された手などから伝わってきた。


”後には引けぬ。この男の餌食なるつもりで、この男を喰らってやる。”


時貞はそう決意して、顔をクイッっとあげて前を見据えた。


「この部屋じゃ、ささ、入られい。」


そう言いながら腰をグイっと押されて、中に押し入られた感じになったかと思えば、片腕をグッと引かれて佐々木の胸の中に入る格好となった。時貞の顎を掴むと強引に上を向かせその唇を貪るように、佐々木の口が覆い隠した。


「ふっ・・んんっ・・」


呼吸すら取りづらいほどの激しい口づけを繰り返す。呼吸の為に少し開いた口の中に、強引に舌をねじ込んできて口内を舌で探るように動かしてきた。時貞は腰を引いて少し離れようとしたが、佐々木の片方の手が逃げぬように腰を引き寄せ、強い力で佐々木の身体に密着させられていた。


「んんっ・・さ・さ・き・・様・・・苦・・しゅうご・・ざいます。」


息も絶え絶えになりながら、声を絞り出した。


「そうか・・。すまぬ、お主が悪いのじゃ、儂を煽り立てるようなことをさらりとする。じゃから、止まらぬ。」


そう言うなり、時貞の首筋に吸い付いた。軽く吸い上げると共に、舌を這わしてくる。時貞は、準備が出来てない身体に降りかかった、突然の刺激に翻弄されかけていた。疲れもあったのだろうか、この間は悪寒が走ったこの行為が、今はゾワゾワとした感覚になり、男の象徴に向かい甘味な刺激となり伝わっていく。カクンと膝から力が抜けると同時に畳の上に押し倒された。先日言われた感覚に預けるというような余裕はなく、感覚に占有されつつある自分を自覚せずにはいられなかった。


”なぜじゃ・・・こともあろうに・・こんな・・こんな・・男に・・”


襟元を少し広げられ、そこにも佐々木の唇と舌が這い回る、体の自由を抑えつけられ、与えられる感覚に敏感になってくると、出したくもない吐息と声が自然と内側から出てくる。


「んあぁ・・んん・・」


甘ったるい艶を含んだ声は、佐々木の理性をはぎ取り、荒々しく時貞の上半身の着物を腰の帯の位置まで下げた。これで手が自由に動かせなくなり、佐々木を押しのけることも無理になった。あらわになった胸を、狂気に満ちた目で眺めている佐々木が身体にまたがっている。口元にはわずかに薄く笑いがあった。時貞には見えなかったが、稽古の痕が無数浮かび上がっていたのだ。白い肌に赤紫色した打ち身の場所が、ところどころにある、それは佐々木の付けた痕なのだ、佐々木の中では時貞を征服した否、狩りをした獲物のように思えて、普段以上に興奮をしていた。少し湿った感じのある佐々木の両手が、時貞の首筋から肩、胸を撫で始めた、時々、小さな粒を指で押し上げたり、弾いたりしながら時貞を観察していた。


「ああぁ・・。」


またも、新たな感覚が時貞を支配し始めた、一度その感覚に捕まると制御できなくなる、頭をもたげてくる象徴に、ドクドクと血液が送り込まれ始める。佐々木にはそれがわかるのか、後ろ手で時貞の高ぶりを布越しに撫で上げつつ、胸の尖りに指と唇で刺激を与えるのだ。あまりの刺激に正気を取り戻したいと頭を振ってはみるものの、与えらる刺激は脳の奥深くを支配する。快楽。その言葉通りに時貞は快楽の虜になり今にも爆発しそうだった。



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