夕飯済まして、明日の準備を終わらせたころに、あめちゃんからメールが入った。


〔今からそちらに伺います。ケーキ買ってきたんで食べましょう。〕


おお!!この間から思ってたんやけどな、メールの文章は長崎弁にならへんのやな、そんな細かいとこにちょっと突っ込みつつ、あめちゃんの到着を待つ、その時間がめっちゃ長く感じるんはなんでやろうなぁ。ほんの数分であめちゃんの声がした。


「こんばんわ、おばちゃん三光さんの部屋はどこ?今日は最後たい、だけんが・・。」


「コーヒーか紅茶が必要じゃなかとね?ケーキばこうて来たとやろ。食堂ば使わんね。」


しっかり予防線張られた気分や・・。まぁ、ええねん。ケーキ早く食べたいしな。


「こんばんわ、声が聞こえたしな。すんまへん、お言葉に甘えてここ借ります。」


食堂に僕が入ると、あめちゃんの顔がぱっと赤らんだ、相変わらずやなぁ、さて、どっちで呼ぶかな。


「あめちゃん、ケーキなに?」


おかみさんは僕の呼び方がかんろちゃんから変わったことで、僕らの関係が親密になったことにすぐに気が付いたらしく、ちょっと嬉しそうな顔で僕らを見てから食堂から出て行くおかみさん。気を利かせてくれはったんやな。なんや、少し心で悪態ついたん申し訳なかったなぁ。


「梅月堂(ばいげつどう)でシースを買ってきたとです。職場でちょっと聞いたら、これ、長崎限定らしかですねうちらは小さかころから食べとっけん当たり前かとですけど。だから、食べて帰ってもらいたくて」


シースってなんや?箱から出してきたんは、ショートケーキのようで、ショートケーキのメインのいちごが、シロップ漬けの桜桃とパインになってん。珍し・・。でも、おいしそうや。あめちゃんが淹れてくれた紅茶と一緒にそのケーキを食べた。ショートケーキとほとんど変わらへんのやけどな、スポンジも、生クリームの味もあっさりしててな、少し甘めの桜桃とパインとの味が絶妙やねん。う~ん一個じゃ足りへんもっと食べたかった。ほんまに食べたいのは、目の前にいるこのかわいらしあめちゃんなんやけどな、おかみさんの気持ちを裏切るわけにもいかず、このまま、我慢して京都に帰るか。


じっと僕が見つめてたせいか、あめちゃんの顔が赤く変わりだした、その顔が僕を狂わせんねん。ああ、僕以外にもこの子のこれが気に入ったらどないしよう。そんな不安を吹き飛ばしたくてテーブル越しにあめちゃんにキスをした。部屋にお持ち帰りしたいねんけど、もう時間も遅いし、あめちゃんのご両親に心配をかけさせるわけにもいかへん。彼女の家まで送る道すがら、明日の出発時間を伝えた。人通りの少ない公園で、お互いを求め合うように口づけを交わし長崎旅行最後の夜を締めくくったんや。


翌朝、とうとう僕の長崎の旅はおしまいや。おみつさんに導かれてこの街にきて、彼女が誓った相手を見つけ出し、そして僕も恋に落ちてしまった。それやのに、また、おみつさんと同じく別れて過ごす時間が来てしまう。ギュウっと心が掴まれるようなそんな気持ちで朝を迎えた。


「お世話になりました。おかみさんのおかげでとても楽しい時間が過ごせました。また、来ます。」


「ほんとに、こちらこそ、姪っ子をありがとうね。また、来てくださいね。」


朝、早い時間の特急で博多に向かって、博多から新幹線で京都に帰るようにしていた。まだ、帰りたくない。でも、僕も仕事があるからなぁ。ずっと続いていた晴れの日も、今日は僕の気持ちを察してか曇り空で、湿気がムンムンとまとわりつく。こっから長崎駅までは徒歩でも行けんやけどな、最後に電車に乗っておこうと桜町の電停から、長崎駅までの一区間を電車で進んだ。なんや、あめちゃん、今日は送りに来てくれへんのかな?昨日の帰り際に、行けるかどうかわからへんって言うてたもんな。今日は土曜日なんに仕事なんかな。女々しく思いつつも、会えへんまま帰った方が寂しいの少しで済むんかもしれへんと思い直した。


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