さて、おかんに頼まれたカステラ買に福砂屋の本店に行こうかな、そう気持ちを切り替えて今度は、電車で思案橋に向うことにして公会堂前の電停に向かった、その時にやっと気が付いたんやけどな、あんまり普通に車や、電車が走っていたさかい忘れてたんやけどな、昨日道中にうっすらと積もっていた、爆竹と花火のかすがほとんどないねん。電車の線路のへこんだところや、窪んだところに昨日の残骸が見られるだけで、昨夜の影はもうどこにもないんや、すごいなっと感心するのと、ちょっとチクっと心の奥が痛んだ気がした。


今日は4番の正覚寺下行きに乗って思案橋で降りる。なんで思案橋って言うんやろうな、そう聞きたくてふと横見ても、あめちゃんおらんのやったな・・。なんや、味気ない。ほんまは一人旅でそんな気なんてするはずなかったんになぁ。思わずため息があふれてくる。思案橋電停に降り立つと、思案橋ってかいてある通りが目に入った、わざわざネオンを作ってあるってどないやねん。まぁ、親切に教えてくれてるんやからな、そっちに向かって横断歩道を渡っていった。まるで路地裏に向かって進むんと違うかって感じでな、周りには、パブなんかが立ち並んでいる、いわゆるオッチャン達の夜の社交場ってとこやなぁ。こんなとこにカステラの老舗の本店があるんか?って思ってたら、古い趣のある建物に、福砂屋と書いた暖簾がかかっていた、京都の祇園にでもありそうな建物で、今までの長崎の雰囲気とちょっと違う、和の建物のどっしり感がそこにあった。引き戸を開けて店の中に入ると、また、古いいい感じの店なんや、おかんに本店で買うて来てっていわれたんの、意外に良かったかもな。おかんから頼まれたカステラやけどな、思わず、五三焼なるカステラとオランダケーキっていってなココア味のカステラと、普通のカステラをそれぞれ買ってしもうた。単に自分も食べたかっただけやけどな・・。
ここには、ビードロやギヤマンのコレクションも飾ってあってな、なんや、違う時代にタイムスリップしたみたいにちょっと感じられた。

店から出るとまた眩しい太陽が照りつける、ちょっとお店の人に聞いたんやけどな、「思案橋」とはな、昔ここいらは丸山遊郭の近くやったらしいんや、まぁ、よく言われるお江戸の吉原や、京都の島原と同じやな、長崎の丸山遊郭は三大遊郭の一つでな、ここに遊びにいこか、それとも戻ろうかって男たちが思案した橋があったんやと、近くに柳があるっていわれてたさかいちょっと歩いたらすぐに見つかってん、もう橋はないんやけどな、ああ、そういう事か、ここにいた遊女さんたちの歌やったんや、「でんでらりゅうば、でてくるばってん~♪」って歌は、ほんま、悲しいなぁ、ここに入ったら、身請けされん限り、出るに出れへんもんな、墓場と一緒や。そうか・・。おみつさんの気持ちがそれに反応してんたんや。そう思いながら佇んでいたら、


「みひかりさん?」


って声が後ろからしてん、振り向いたらな、あめちゃんがそこにいた。なんで?


「やっぱり、なんばしよっとですか?こがんところで?」


「昨日の電話の頼まれごと。あめちゃんこそなんでこんなとこに?」


「うちの仕事場の近くなんです。ちょっと仕事が立て込んでたからこれからお昼に行こうって思ったとですけど、三光さんはたべましたか?」


「ああ、もうそんな時間なんや、もしかして、あめちゃんと一緒に食べれんの?」


「あんまり時間はなかとですけど、そうだ、B級グルメのトルコライス食べませんか?暑いからちょっと重たいけど、三光さんなら大丈夫じゃなかかな?」


「あめちゃん、僕は食いしん坊やないで・・。」


「ええ!!食いしん坊だと思てました。食べないですか?」


「もち、食べるに決まってるやろ。連れてってや。」


めっちゃ食いしん坊なんです。B級グルメっていってもなわりと長崎では結構前から食べられているものらしいけどな、トルコってついてるけどな、トルコと全然関係ないねん・・。とんかつ・スパゲティナポリタン、カレーピラフ・サラダなんかが一皿に盛ってある、大人のお子様ランチってとこや、腹ペコの僕にはもってこいのメニュー。がっつり頂きました。その様子を唖然としながら見てたあめちゃん、今日は時間なかったんと違う?


「なぁ、時間大丈夫なん?」


そう僕に言われて時間を確認して慌てるあめちゃん、やっぱり天然や・・。僕のことより、仕事やらな・・。でも嬉しいねん、ちょっとだけでも二人で居られるってほんまにええなぁ。僕、やっぱ長崎に転職してこようかなぁ・・。


「三光さん、夜にまた。」


そう一言残して、お店から飛び出していった。その後ろ姿を見送りながら、ふと、心細くなる。その気持ちは、どこかせいさんを見送ったあみつさんの気持ちと似ていた、もしかしたらあめちゃんも同じかもしれへん。さぁ、最後の長崎の街を楽しんで、あめちゃんとの時間もしっかり楽しめるようにしとかなな。
夜までの時間、有名どころをぶらぶらと歩いてさるくこれ長崎弁な、そして、最後にもう一度、お諏訪さんにお参りしてから、旅館に戻った。


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