「あかんな、うろ覚えで言うもんやないなぁ。でも、かんろちゃん、よう知ってるな。」


「金子 みすずさんの詩は好きなんです。小さい物に目を向けていて、とっても優しい感じがする詩が多かけん。」


にっこりとした笑顔で答えるかんろちゃん、その顔に僕は弱いねん。その顔見る度にドキンって心臓が音立てんねん、かんろちゃんにこの音聞かせてみたいくらいや。かんろちゃんの笑顔に浸っている僕を現実に戻すように館内放送が流れてきた、これからペンギンの散歩が始まるそうや、フンボルトペンギンがよちよちとペンギンの飼育ブースから出てきて最初にお立ち台でご挨拶ってゆうか人間さんの為に写真撮影用の時間を取ってくれてんねん、そして、館内を散歩するかと思いきや、そのまま外にでてな、ペンギン用のプライベートビーチに向けて歩いて行くねん、その後ろを人がぞろぞろとついて行くんやけどな、さながらペンギンサーカス団っていう絵本を思い出す感じや。ペンギンは砂浜の方を歩くんとちゃうで、コンクリートのスロープを歩いて降りて海に入って行くんや。海に入ったら気持ちよさげに泳いではった。すぐに飼育員さんが給餌のショーをしてくれんねん、お腹空いてんのは浜まで上がって来てねだってるんやけどな海に投げられるさかい、慌てて海に戻るんやけどな、海に戻ったらめっちゃ速いスピードで泳いで魚を取るんや、でもな、このペンギン達生きた魚を食べへんのやと、どっちかというと、追っかけるらしいねんけどな、海の魚の方が一枚上手ならしい。かんろちゃんが教えてくれた。


のんびりと泳ぐペンギンを観察してて、暫くしたらペンギンを触れる時間になってん、僕らも子供に交じって並んでペンギンを触らしてもらった、表面はツルツルしてんけどな、中の羽はふわふわとしてん、たまたま触れたペンギンの中の羽が少し表に出てたさかいさわれたんや。なんや、無邪気に二人でペンギン囲んで触ってられんのとにかくええんや、少し狭いスペースのおかげでかんろちゃんとくっついてられて、かんろちゃんもそんなん気が付かへんで楽しそうにペンギン触ってるんや、この時のかんろちゃんの顔は無邪気な子供のような顔してたんや。こそっとかんろちゃん観察してる僕はなんなんやろう・・。
触るだけ触って、幸せを溜め込んだらな


「そろそろ戻りましょう。早く戻らんと車が規制されるけん。」


なんや突然慌て始めたかんろちゃん、


「どないしたん?」


「もうすぐしたら精霊船の出発時間になっとです。三光さんといたら、ペンギン水族館でも長く居れた。急がんば」


たしかにな、そう長いこと入れるような水族館ではないけどな、結構長くいたもんなってかんろちゃん早いって、帰ると決めた途端早足で車に戻るかんろちゃん、帰りも今度は上りの急カーブを躊躇なく突っ込んで、行の道とは違って途中にトンネルが2つある道を通ったら見覚えのある道に出てきた。その道に戻った頃には、綺麗に飾り立てられた精霊船らしきものが、道路脇に置いてあり、その周りにハッピをきた人々が集まっていた。


「ああ、もう出るとばいね・・。早う帰らんば、三光さん一度家に戻りますけん、えっと、夕食ばおばちゃんにお願いして早

うしてもろうとりますけんが、また、6時半ごろに会いましょう。それで、足首まであるズボンを着てください、出来たら破けてもいいもの、上の服も本当は長袖の方が安全なんやけど・・。やっぱり汚れていいものを着てください。オシャレにしてもよかとけど・・。爆竹の飛んでくることがあっけんがあんまりオシャレはせんほうがいいです。」


「えっ?ああ、6時半に?」


そういっている矢先にパンッパンッバッ・・・!!!という爆竹の破裂音ととともにカンカンカンカンと鐘のような音がした。


「ああ、どこかが出発した。」


「なに?さっきからようわからへんのやけど・・。」


「そうか・・そうたいね、三光さん知らんとたいね・・。船がそろそろ出発する時間なんですよ。さっきの爆竹と銅鑼の音は、船が出発する合図なんです。これからこの道も、うちの近くの電車通りも精霊船の通り道になるとです。車は規制されて通れんごとなるとですよ。それで急いどっとです。」


そう言えばな、最初の日に乗ったタクシーの運ちゃんが言うてたな、電車だけは動くって。そんなにあの船が出てくるんか・・・。


「かんろちゃん、でもな、何でそんなに洋服を気にするん?」


「口で説明してもわからんと思うけど、とにかく爆竹や、花火を大量に使うし、物によっては、飛んで来たりするとです。私も前に浴衣で見物してたら、浴衣に爆竹が飛んできて穴が開いたことがあるとです。それから、耳栓が必要かとです。とにかく耳が馬鹿になりますけん。」


いつもよりキリッとした感じで説明しながら、相変わらず少し荒い運転で家路を急ぐかんろちゃん、ちょっとかわいらしってよりも、今はかっこいいって感じやな、ん~これもまたいい、僕はこの後かんろちゃんなしでいられるんやろか・・・。そうや、昨日のパンパンって音は爆竹やったんやな、でも、なんで?


「かんろちゃん、昨日も爆竹なってたんやけどな、この船の出来上がりか何かを祝ってたん?」


「えっ?あれ、他のとこでは盆にお墓で爆竹や、花火せんとですか?」


「お墓で花火に爆竹って、そんなんせえへんで。先祖さんびっくりしはるやろ」


「長崎じゃ普通ですよ。盆の夜はお墓に行って花火をして鎮魂を祈るとです。子どもの頃からこれが楽しみで、お盆は好きだったりするんです。みんな集まっていとこと競いおうて花火ばするとって楽しかでしょう。」


それ、わからへん。でも、ええかもな、不思議な感じやな。花火に爆竹に船、長崎のお盆はめずらしいくらい賑やかやな。おみつさんはそんな賑やかなことしてもらえたんかな?ふと、僕の過去世に思いをはせていた。


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