「こんな話だけど、かんろの話したのとそうはかわらんやったろ。そうそう、16日に、光源寺でね幽霊像の御開帳があるとよ。言い伝えじゃ清永が彫ったと言われてるらしかばってん、本当は違うらしかけどね。たしかおかえりは17日やったけんがみらるっね。紙芝居もしてくれるらしかけん、行ってみたらよかよ。」


「そうですね、こんなチャンスめったにないですね。ほな、せっかくやから寄らしてもらいます。」

話にひと段落したところに、


「おばちゃん、三光さん大丈夫?メールするとけど、なんも返事のなかけん気になっとけど。」


そう言いながら、浴衣姿のかんろちゃんが食堂に入ってきた。

藍色の生地に朝顔の花があしらってある、少し大人びた感じのかんろちゃんが僕の前に急に現れて、僕の顔をみたとたん、あわてて逃げて行こうとするのを、


「あんた、そいはいくらなんでんお客さんに失礼かよ!!」


振り返ったかんろちゃんの前にかんろちゃんの母親らしき人が少し怒った顔で、かんろちゃんをたしなめていた。おずおずとこちらに振り向いて


「ご、ごめんなさい。まさかここにいらっしゃるとは思っとらんかったけん。あの・・身体大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ。それより、もしかしてかんろちゃんの・・。」


「すいません。甘露(あめ)の母です。三光さんですよね。娘の様子からそうかなと思いましたけんが、今日は大変失礼しました。娘が暑か中連れまわしたけんが、具合が悪くなったようで。お詫びに来ました。」


「いいえ、あっすんまへん。さっき風呂をもらった後さかい浴衣姿のままで、いやいや、僕がお願いしてるんですから、気にせんといてください。娘さんには変な心配までかけてしまって。」


丁寧にお詫びをされるほどのことやないんやけどなぁと思いながら、僕の方がこの状態では四面楚歌やんって感じになってん。思わず助けて欲しくてかんろちゃんに目配せしたんやけどな、昼間の告白のせいなんか目逸らせれてん、かんろちゃんのおかんと、おばさんに挟まれた僕の立場は如何に・・。ちょっと緊張気味の僕に気が付いてくださったおかみさんが、


「なんね、あんた、かんろばだしにして三光さんば見に来たとやろ。うちがよか男よって言ったけんが。」


「当たり前たいねぇちゃん、よか男って聞いて見に来んわけにはいかんやろ、かんろが世話になっととよ。」


「そがんゆうて、あんたが目の保養ばしに来ただけやろもん」


「そがんとこたい。」


あはははと笑いあうおかみさんとかんろちゃんのおかんの長崎弁に圧倒されつつ、苦笑いというか、愛想笑いとゆうかそんな笑いを浮かべたままの僕へ、おかみさんがかんろちゃんを押し出して、僕をこの場から逃げられるようにしてくれはった。


「ほらかんろ、せっかく浴衣きてきたとやけんが、三光さんにお願いして少し近くば散歩してくればよかたい。」


押し出されたかんろちゃんは、真っ赤な顔をして、


「なんでぇ・・。困らすよ・・。おばさん、三光さんはお客さんなのに・・・。迷惑って・・・・。」


しどろもどろで抵抗気味なんで、かんろちゃんの側によって耳元で少し話してから、


「浴衣姿ってのもええなぁ。せっかくお母さんもOKって顔してはるしな、すんまへん僕がお借りしてもよろしいですか?夜景でも見に行きたいと思てまして。案内してもらえへんかな?僕は一度部屋に行って着替えてくるさかい待っててや。」


逃げれへんように先手を打ってみた。かんろちゃんのアワアワとした表情に少し吹き出しかけながら、あくまでもやましいこと考えてへんような好青年のふりして部屋に戻って着替えをすまし、かんろちゃんのお母さんにお許しを頂いて、夜景を見にかんろちゃんと出かけた。こんなんラッキーなことあんねんなぁ。でも、このままラブホに連れ込んでいけないことしようって魂胆はないねん。なんや、傷つけたくない。大事にしたいねん。まだ、僕のこと好きなんかもわからへんのに嫌われたくないしな。


「なぁ、どこ行ったらええ夜景みえる?」


「三光さん・・・。なんでもないです。定番でわるかとですが、稲佐山に行くと綺麗です。ちゃんと展望台もあるし。た

だ・・展望台にいくにはあの・・ロープウェーで行くことになるか、タクシーになると思います。」


「ほな、ロープウェーやな。かんろちゃん高所恐怖症やないよな。僕は閉暗所恐怖症なんでな、狭くて暗いところは頼むで。」


ぽかーんとした顔して僕を見てるその顔、もう堪らへん見続けたら唇奪いそうや、かんろちゃの顔の中には必ず見え隠れするあの表情があるねん。かんろちゃんとあの人が繋ってるんは多分間違いない。ほやけど、約束なんかしてへんやん!!そこは僕がなんとかせいってことなんやけどな、そううまくいくかわからへん。また、無理かもしれへんでおみつさん。心なし不安定になっている僕は、かんろちゃんに対して少し臆病になっていた。それなのに、おみつさんは許してくれへんねんな、僕の身体つこうてどんどん前に出て行きはる。今かて僕が躊躇してんのに、勝手に体が動いてかんろちゃんの手を繋いでしもうた。かんろちゃん、いやがらへんねん。繋いだ手を離すことなくぎゅっと繋ぎ返してくれてん。


「三光さん、なんだか消えて行きそうな感じがする。消えたらだめですよ。おいていかんで下さい。」


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