セイライが、コハク方へ就いたことは、スコウ天上側に伝わった。劣勢が覆る事はこれでなくなった。正面から打って出て、勝機があるとはとても思える状態ではない。味方のある武が、作戦会議において、天上に策を申し出てきた。


「畏れながら申し上げまする。この戦、正攻法の戦いでは、残念でございますが、とても勝機をもたらす事はな

いと思われまする。しかしながら、奇策に打って出れば、勝機を呼び寄せる事が出来るやもしれませぬ。」


「さて、奇策とはどのようなものか?」


スコウ天上が尋ねた。


「夜襲でございます。深夜に敵方の屋敷に奇襲攻撃をかけるのです。あちらは、屋敷の中にも多数の人数がおりまする。しかし、夜中であれば、いかに警護が厳しくとも、手薄になるところがでようとおもわれまする。屋敷に火を放ち、混乱したところに、一斉に踏み込むのです。我らは、コハク天、チンザイ殿、関白殿を手中に収めれば、すばやくその場から退散いたせばよいのです。時間はそうかからず、事を終わらせることが出来ましょうぞ。」


「まて、夜襲とな?!それでは、こちらが、蛮族のようではないか。余は天上ぞ!!そのような卑怯な真似事など出来ようか。」


夜襲、戦術としては立派な戦術なのだ、少ない人数で死傷者を最小限に留め、それでいて目的を遂行しやすいのである。少ない人数だからこそ、圧倒的な差を埋める方法を考え、勝利に結びつける。武にとっては、当たり前で、大切なことだった。しかし、雅な世界で育ち、戦の凄まじさなど、目の当たりにしたことのない天上にとって、夜を突いての奇襲作戦など、蛮行にしか思えなかったのである。


「卑怯などでは、ございません!!これはれっきとした、戦術でございます。天上、お考えくだされ、我が軍は、あまりにも少ない。この人数で、日中に戦おうと思われるなど、それこそ蛮行でございまする!!」


天上に向って言う言葉ではなかった。ゼトとて、夜襲が最良であることぐらい、わかっていた。しかし、天上と、天との戦、天上の思いを優先させなければならないのが、しきたりである。


「そち、言葉が過ぎるぞ。天上に向かい、蛮行とは、無礼千万ではないか!!天上の言われるように、夜襲はなしとする、以上この会議は、明朝に戦をかける為の、作戦とす。」


ゼトが宣言した。進言した武は、唇をかみ、膝の上で拳を握り、肩を震わしながら貴族の悠長さに、歯噛みしていた。ゼトは、その武の横にそっと座り、扇で口元を隠しながら、


「夜襲に備え準備をいたしておけ。こちらの作戦、もしやもすれば漏れ出ておるかもしれぬ。天上は、世間知らずゆえ・・・・。内密に行え、天上に気取られぬように、最小限の準備を。」


そう指示をしていた。耳打ちされた武は、頷き会議後すぐさま兵を配置し、夜襲に備え見張りをたてた。

ゼトの予測は、見事に当たっていた、会議後、天上の屋敷より女中が、外に出てきた。その女中の側に影が近づき何やら文をその影に渡した。その後、その女中は何食わぬ顔をして、屋敷に入っていった。誰も、そのことに気付く者などいなかった。
女中から文を受け取った影は、のらりくらりと歩き、光のない場所に来ると、そこに繋いであった馬に飛び乗り、疾風の如くその場から駆け出した。その馬の行き着いた場所は、言わずと知れた、チンザイの屋敷。その文には、


「天上軍、夜襲せず。」


そう書かれていた。チンザイはすぐさま武の幹部に招集をかけ、このことを伝えた。チンザイは、すぐさま先制攻撃をする様に、天に進言した。しかし、ここにきて、関白が


「向こうが仕掛けてこないのです。私たちは、正しいのです。わざわざこちらから戦を仕掛けずとも・・・・」


と意見がわかれた。チンザイは、チッと舌打ちをし、


「良いですか、あちらが謀反を起こそうとしておるのは明確。さすれば、その罪を起こす前に潰してなにが悪かろう。ここにきて、関白殿は弟君が可愛そうに思われたか?それとも、何かやましい事でも、心に抱えておられるのか?弟君は謀反の張本人でございまするぞ。天の前で、その弟君を庇い立ていたすことは、関白殿も、同じ謀反人となりまするが、如何いたしまするか?」


「私は、庇い立てしておるわけではござらん。ただ、むやみに血を流すのはいかがなことかと・・・・。」


チンザイにギロッと睨みつけられ、それ以上言葉が続かなくなった、関白、ここにきて、利用されていることに気がつき始めた。


「天、ご判断を!!」


「うむ、謀反を起こそうとしていること、一目瞭然、よって、スコウ天上の軍に攻撃を加える。セイライ、ヨギ(セイライとほぼ同じ力を持つ一族の武)、兵を動かせ。」


「御意!!」


朝日が昇る少し前、天上の陣営の屋敷を、セイライ率いる300余騎、ヨギ率いる200余騎、そして、もう一軍が、100余騎の軍勢が取り囲み、戦の火蓋が切られた。天上の軍勢は、屋敷を出ることなく、屋敷から矢を放ち応戦をした。夜襲に備え警護をしていたことが、功をそうした。これだけの軍勢に、寝込みを襲われれば、ひとたまりもなかったであろう。しかし、その力の差は歴然で、次第に、屋敷の近くまで、兵が押し寄せるようになってきていた。


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